欧州委とギリシャ、「フェタチーズ」のGIでせめぎ合い-日EU・EPAの大枠合意をめぐり攻防-

(EU、ギリシャ、日本)

ブリュッセル発

2017年07月13日

欧州委員会は7月6日付で、ギリシャのディミトリス・パパディミトリウ経済・開発相に宛てて出した書簡を公開し、同相がギリシャの代表的なチーズ「フェタ」の地理的表示(GI)の対外的な保護水準に不満があり、日EU経済連携協定(EPA)で完全な権益保護を求めていたことを明らかにした。これに対し、欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は「EUで認められているGI要件を満たさない『フェタ』の日本での呼称使用はEPA発効から7年の猶予期間を経て排除される」として、ギリシャの権益を考慮した成果を対日交渉で得ているとの見解を示した。

フェタチーズのGI保護水準に不満を示したギリシャ

欧州委は7月6日の日EU首脳会談で大枠合意した日EU・EPA(2017年7月7日記事参照)について、ギリシャのパパディミトリウ経済・開発相が6月30日付でマルムストロム委員に対して、「フェタ(チーズ)」などのギリシャ産品に関わる地理的表示(GI)の権益が同EPAの中で保護されるのか、懸念を表明していたことを明らかにした。これは、欧州委の同委員が7月6日付で公開した回答書簡を通じて示された。

パパディミトリウ経済・開発相は意見書の中で、「ギリシャ産品の中でも最も重要な7品目のGIについて完全な保護が適切に行われるのか」と懸念を表明した。同相は「ギリシャの強い反対にもかかわらず、EUはカナダとの包括的経済貿易協定(CETA)や南部アフリカ開発共同体(SADC)とのEPAで、フェタチーズについてGI制度上の不利な扱いを認めた」としている。ギリシャとしては、こうした不利な妥協を今後は回避したい意向だという。

また、パパディミトリウ経済・開発相は「こうしたGIをめぐる通商協定の不満足な結果はギリシャ国内では批判を浴びている」「(問題を放置した場合)さらにEUの通商政策そのものに対する反発につながりかねない」と危機感を表した。その上で、同相は「GIをめぐるギリシャの権益を完全に反映しない通商協定は支持しない」と指摘。日本とのEPAに合意する場合も、ギリシャの権益を尊重するよう欧州委に迫った。

「フェタ」に関する排除猶予期間は7年

このパパディミトリウ経済・開発相の意見書に対して、欧州委は7月6日にマルムストロム委員名で回答書簡を出し、ギリシャがフェタチーズのような代表的なGI権益に対する適切な保護を求めることを、「中小規模の地場産業や農業生産者を効果的に支援する観点で、欧州委員会としても重要と認識する」とした。そして、同委員は「これまでの日本とのEPA交渉において、フェタチーズの扱いに関する日本での状況は十分に考慮してきた」「『フェタ』の日本での呼称はGI要件を満たすギリシャの認定生産者に限って使用が認められることを確約する」と回答している。また、「(EUで認められている)GI要件を満たさない『フェタ』の呼称が、これまで(日本で)使用されていた場合、EPA発効から7年以内に廃止しなければならない」「しかも、それがEU加盟国の原産品でありながら、GI要件を満たさない場合には、(7年以内という)廃止猶予期間も認めない」との見解も明らかにした。このため、EPAが発効すれば、日本における「フェタ」の呼称保護はギリシャの期待どおりの水準が確保されることになり、(現在の交渉結果は)極めて顕著な成果だとした。

マルムストロム委員は「大枠合意は交渉プロセスの終了を意味するのではなく、合意した協定テキストも、必ずしも最終ではない」としながらも、「『フェタ』に関わる交渉結果を維持できるよう可能な保証を取り付けている」と回答した。

なお、欧州委が発表した日EU・EPAについての概要によると、「フェタ」のほか「カマンベール」「ブリー(白カビ)」などのソフトタイプのチーズについては関税割当の対象となり、日本の国内市場での消費動向を考慮した割当枠を設定することとなっている(2017年7月7日記事参照)。

(前田篤穂)

(EU、ギリシャ、日本)

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