野党は政権にカナダ側の目標の説明を要請-NAFTA再交渉めぐる米国の目的公表への政財界の反応-

(カナダ、米国、メキシコ)

トロント発

2017年07月24日

米通商代表部(USTR)が7月17日に公表した北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の目的詳細を受け、トルドー政権は野党からカナダ側の再交渉の目標を説明するように求められている。政界からは米国第一主義の色彩が強い内容に懸念が表明されたほか、米国側が廃止を求める紛争解決制度は何らかのかたちで組み込むべきだとの意見が出た。一方で、自動車業界は公表された内容に驚くべきものはなく、米国の政府と自動車業界は、規制の変更が自動車産業にどのような影響を及ぼすかよく理解しているとして、内容を評価した。

各州首相も声明で意見を表明

カナダの2大野党は7月18日、トルドー政権にカナダ側のNAFTA再交渉の目標を議会の委員会で説明するよう要請した。与党・自由党は要請に応じる見込みだ。デレック・バーニー元駐米カナダ大使は「米国側の発表は米国第一主義のレトリックがあまりにも多過ぎ、カナダとメキシコがNAFTAの見直しから何が得られるのか議論が不十分」として懸念を示した(「グローブ・アンド・メール」紙7月19日)。さらに、米国側が廃止を求める、紛争解決制度を規定するNAFTA第19章について、バーニー氏は「米国側は第19章がなぜ米国にとって不利な内容となっているのか説明すべきだ。われわれは一方的な廃止通告をそのままにしておくべきではない」との意見を述べた。また、デイビッド・マクノートン駐米カナダ大使は、7月18日にエドモントンで開催されたカナダ州首相年次会議の記者会見で、「(NAFTAには)何らかのかたちで紛争解決制度を組み込むことが重要」との見解を示した(「グローブ・アンド・メール」紙7月19日)。

各州首相も声明を発表している。サスカチュワン州のブラッド・ウォール首相は「カナダ連邦政府が米国との再交渉に向け、トランプ政権や米国州政府との取り組みも含めて準備をしっかりしてきている点は評価できる。しかし、もし再交渉が決裂した場合の貿易紛争に備え、カナダ側で報復措置が可能な貿易分野の一覧を準備すべきだ」と意見を表明した。ケベック州のフィリップ・クイヤール首相は「米国側が公表した広範にわたる交渉項目リストを考慮すると、再交渉に数年を必要とするだろう。NAFTA再交渉が始まる前に、米国が針葉樹材協定にどの程度求めてくるのかも含めて、不明な部分が多い」とコメントした。

過度な心配は不要との見方も

一方で、過度な心配は不要、との論調もみられる。同紙(7月19日)は、「当初、トランプ大統領はNAFTAを廃止するつもりだったが、それに比べれば今回公表されたNAFTA再交渉のリストはそれほど過激な内容ではなく、そこそこの現代化を求めるものとなった。紛争解決制度の廃止については、既存の仕組みでは必ずしもうまく機能していない部分もあるので、より良い方法を議論すればよい」とする公共政策コラムニスト、ローレンス・マーティン氏の見解を紹介している。同日の別の記事では、「今回公表されたリストには、数カ月前の攻撃的な要求はなく、カナダの消費者にとって利益になる内容もあれば、越境取引の免税額の引き上げといった、カナダ国外のオンライン販売会社に有利となる内容もある。また、2国間紛争解決制度の廃止という、一世代前の協定交渉時に協定そのものが決裂しかけた問題も含まれている。交渉がうまくいく保証はないが、多くの米国有権者の攻撃の矛先はカナダではなくメキシコに向けられている。来年は米国とメキシコで選挙があり、両国の有権者は政治家がどのような決定を下すか、注目している」との見方を示している。

自動車部品業界は公表された内容を評価

NAFTAの原産地規則の強化について、トランプ政権は慎重な言葉を用いて要望している。自動車部品製造業協会(APMA)のフラビオ・ボルペ会長は、公表されたリストに自動車部品産業が驚くべき内容はなかったと述べた上で、「米国の政府と自動車業界の間では、規制の変更が産業にどのような影響を及ぼすか、実質的な議論がされており、自動車産業がNAFTA加盟国間でいかに深く結び付いているか、よく理解している」との見解を語った(「フィナンシャル・ポスト」紙7月18日)。

(伊藤敏一)

(カナダ、米国、メキシコ)

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