評価の報道の一方、交渉の透明性確保を求める声も-日EU・EPAに対するフランスの反応-

(フランス、EU、日本)

パリ発

2017年07月13日

7月6日に発表された日EU経済連携協定(EPA)大枠合意を受けて、フランスでは特に、農業・農産品分野での進展を評価する報道があったほか、経済効果はEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)よりも大きいとの期待を伝えるメディアもみられた。他方、同EPAが一般市民の間でほとんど認識されていないことから、エマニュエル・マクロン大統領の下で環境連帯移行相を務める環境活動家のニコラ・ユロ氏が創設した「人類と自然のための財団」は7月10日、政府に対し、市民への透明性確保の配慮を求めた。

日欧合意の象徴的な意味を伝える

日EU・EPA大枠合意について、フランス大統領府や政府からは今のところ公式見解が出ていない。日EU首脳会議で大枠合意した7月6日の週は、マクロン大統領の上下院合同会合での所信表明演説(3日)、エドアール・フィリップ首相による施政方針演説(4日)、マクロン大統領が公約した労働法改正や税制改正に関わる国民議会(下院)における審議開始など、国内政治の大きな動きと重なった。そのためか、日EU・EPA大枠合意に関する報道は少なく、産業界、経営者団体、労働組合の関心もマクロン大統領が進める構造改革の行方に向いているようだ。

「ル・モンド」紙(7月6日)は「EUは、米国を筆頭とする世界の他地域に対する反保護主義の姿勢を示そうと同協定を前面に押し出す意向。ハンブルクでのG20サミットを直前に控えた7月6日での大枠合意は欧州にとって重要かつ象徴的な勝利だ」と伝えた。

欧州側は農産品分野で勝利と論評

これまでのところ、日EU・EPA大枠合意のフランス経済への影響に関する分析や報告書などもみられない。欧州全体への影響については「レ・ゼコー」紙(7月7日)が「同EPAによりEUからの輸出は増加する。大小を問わず欧州の企業、その従業員、消費者にとっては新しいチャンスの到来となる。輸出増加額は約200億ユーロと見込まれており、農業、食糧品、革製品、服飾、履物、医薬品、医療機器をはじめとする多くの分野で雇用が増大する。また同EPAは、EU企業が負担する年間10億ユーロ分の関税の大半を撤廃することが目標だ」と報じた。

また、農業・農産品分野での進展を評価する報道が目に付いた。「ル・モンド」紙(7月6日)は、チーズに対する関税の漸次的撤廃、牛肉に対する関税の段階的削除、ワインの市場開放、原産地名称保護(PDO)に関する合意などを例に挙げ、「欧州側は、交渉の中で最も難色が示されてきた農業・農産品分野で最後にかなりの譲歩が得られたことに満足」とし、EPAが「欧州のGDP成長率に及ぼすインパクトは、現在批准待ちのCETAよりもかなり大きい」と論評した。

欧州市民の反発を招く可能性も

他方、交渉プロセスの不透明性を批判する声も出ている。「ル・フィガロ」紙(7月7日)は「(環境保護団体など)非政府組織は交渉プロセスの不透明性を批判しており、欧州内での反発が最終合意までの道のりを険しくする可能性もある」と指摘した。同紙はまた、欧州のある要人の話として「CETAの時のような論争が起こらないことを祈るが、(危うくCETA調印を凍結するところだった)ベルギー・ワロン地域政府のポジションを予見することはできない」と伝えた。「ル・モンド」紙(7月7日)も「一般市民が同協定合意の重要性に気付いた時のブーメラン効果には注意すべきだ」とした。

環境連帯移行相を務める環境活動家のユロ氏が創設した「人類と自然のための財団」は7月10日、「CETA、EUと米国の包括的貿易投資協定(TTIP)、日EU・EPA:問題を引き起こす世代型貿易協定」と題した声明文を発表した。同財団は以前からCETAやTTIPに強硬に反対してきたが、同声明文の中で日EU・EPAが市民との「協議や討論なく、秘密裏に行われた」ことを批判。「同協定は(日EU間で)社会や環境に関する基準の統合を目指すことから、われわれの生活に影響を及ぼすことになる。交渉の不透明性により、こうした基準が低いレベルで均等化されたことが予測される」と合意内容への不信感を明らかにした。また、「交渉はまだ完結したわけではない。データ保護、政府と投資家との紛争解決処理の在り方など、幾つかの困難な項目についての交渉が残されている。条文の最終的な決定にはまだ数カ月かかるだろう」とした。その上で、「民主主義を尊重し、低いレベルでの基準の均等化を避けるため、交渉内容の完全な透明性を求めるべきだ」と訴えた。

(山崎あき)

(フランス、EU、日本)

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