トランプ大統領、パリ協定離脱を発表

(米国)

米州課

2017年06月05日

トランプ米大統領は6月1日、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定から離脱すると発表した。その理由として、協定が米国に不利益をもたらす一方で、他国にとって極めて有利となる点を挙げた。協定は既に発効しており、規定により米国の離脱時期は早くて2020年11月4日となる。

「2025年までに270万人の雇用を奪う」

トランプ大統領は大統領選挙期間中から、オバマ前政権が議会の承認を得ずに行政権限で進めてきたパリ協定を批判してきた。大統領は人為的な気候変動の可能性は否定しないものの、温暖化対策による米国の産業競争力への影響を問題視しており、今回の決定は選挙戦の公約を実現するものといえる。

大統領は、パリ協定により米国は温暖化対策で巨額の支出を迫られる一方で、雇用喪失、工場閉鎖、産業界や一般家庭に高額なエネルギーコストの負担を強いるとし、また、2025年までに製造業部門で44万人、全体で270万人の雇用が失われ、2040年までにGDPで3兆ドルが失われると述べた。

大統領が演説で引用したこうした数字は、民間のシンクタンク米国経済研究協会(NERA)が3月に発表したもので、引用された数値は報告書どおりだが、エール大学のケネス・ギリンガム教授は米紙で、「NERAの報告書で示された数値はさまざまな仮定の下に算出されたもので、割り引いて解釈すべきだ。特に、クリーンエネルギー部門の成長など温室効果ガス削減のプラスの側面を配慮しておらず、トランプ大統領は報告書の都合のいいところだけ取り上げている」と論評している。

また、トランプ大統領は6月1日の演説で、オバマ前政権がコミットした国連緑の気候基金(GCF)への拠出が、米国の巨額な負担となっていると批判した。

実際の離脱は2020年11月以降か

パリ協定では世界共通の長期目標として、産業革命前からの気温上昇を摂氏2度未満に抑制するとともに、1.5度まで抑制する努力の継続を目指している(協定第2条1項)。協定の発効要件は加盟国が55ヵ国以上で、加盟国の温室効果ガス総排出量が世界全体の55%以上と規定されている。米国の排出量は17%程度なので、米国が離脱してもパリ協定の存続には影響しない。

協定は2016年11月4日に発効しているため、米国は協定第28条1項により、2019年11月4日まで協定脱退を他の締約国に通告できない。また、協定第28条2項で、協定離脱が有効となるのは通告から1年後となっており、米国の離脱が実現するのは早くて2020年11月4日、すなわち次回の米国大統領選挙の翌日となる。

米国に「公平」な枠組みを模索

ただし協定第28条3項により、米国がパリ協定の基となっている国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)から脱退すれば、パリ協定からの即時離脱は可能だが、トランプ大統領はUNFCCCにはとどまるとみられている。これはUNFCCCが米国議会で可決された1992年、大統領は共和党のジョージ・ブッシュ(父)氏で、共和党議員も賛成しており、UNFCCC離脱はパリ協定離脱よりも政治的ハードルが高いといわれているからだ。さらに大統領は6月1日の演説で、パリ協定からは離脱するが、米国の企業や労働者にとって「公平な」条件での再加盟に向けて交渉を開始するか、新たな枠組みを求めていくとして、今後に含みを残している。

スコット・プルイット環境保護庁長官は6月1日、大統領の後に演説し、米国の雇用を最優先する大統領の決定を支持するとともに、米国が環境上の責任で他国に謝罪すべきものはないと述べた。同長官は、2000年から2014年にかけて米国は温室効果ガスを18%以上削減しているが、これは政府の規制や指導ではなく、民間企業のイノベーションや技術の進歩によって成し遂げたものだと説明した。規制ではなく、民間のイノベーションで地球温暖化対策は可能だという見方で、これがトランプ政権の基本的なスタンスともいえそうだ。

一方、石油・ガス産業界は、パリ協定離脱を必ずしも歓迎しているわけではない。とりわけ、レックス・ティラーソン国務長官の出身元であるエクソンモービルは、かねてパリ協定から離脱しないよう大統領に求めていた。

(木村誠)

(米国)

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