知財紛争の増加を踏まえ、司法保護体制をさらに整備-「中国知的財産司法保護綱要(2016~2020)」発表-

(中国)

北京発

2017年06月05日

最高人民法院によると、2016年の知的財産権に関わる案件の一審の新規受理件数は前年比16.8%増の15万2,072件だった。そのうち北京市、上海市、江蘇省、浙江省、広東省の新規受理案件数が全体の7割を占めた。行政事件と刑事事件の件数はどちらも2年連続で減少したが、民事事件は大幅に増加し過去最多となった。また、「中国知的財産司法保護綱要(2016~2020)」が発表された。知的財産権司法保護体制のさらなる整備が進められていくものとみられる。

民事一審の新規受理件数は過去最多に

最高人民法院は4月、「中国法院知的財産権司法保護状況(2016年)」を発表した。それによると、2016年の中国における知的財産権に関わる一審の新規受理件数は前年比16.8%増の15万2,072件だった。そのうち、北京市、上海市、江蘇省、浙江省、広東省の法院の新規受理件数は10万7,011件で、全体の70.4%を占めた。

知的財産権に関わる案件の一審の新規受理件数のうち、民事事件は24.8%増の13万6,534件、行政事件は27.0%減の7,186件、刑事事件は23.9%減の8,352件だった(図1参照)。行政事件と刑事事件はどちらも2年連続で減少した一方で、民事事件は過去最多となっている。

図1 全国地方法院における知的財産権に関わる民事・行政・刑事の一審事件新規受理件数

著作権事件の新規受理件数が3割の増加

知的財産権に関する案件の民事一審事件の新規受理件数を類別にみると、著作権事件は前年比30.4%増の8万6,989件、商標事件は12.5%増の2万7,185件、専利(特許、実用新案、意匠)事件は6.5%増の1万2,357件、技術契約事件は62.2%増の2,401件、競争類事件は4.8%増の2,286件(独占禁止関係の156件を含む)、その他知的財産権事件は71.9%増の5,316件だった(図2参照)。

図2 全国地方法院における知的財産権の民事一審事件新規受理件数(類別) (出所)最高人民法院「中国法院知的財産権司法保護状況」各年版、国家知識産権局「中国知的財産権保護状況」各年版

全国地方法院における知的財産権の民事一審事件の既済件数(処理済みの案件数)は前年比30.1%増の13万1,813件で、そのうち渉外事件(外国との案件、香港、マカオ、台湾関係を除く、現地法人は含まない)は25.6%増の1,667件と全体の1.3%にとどまった。

発表によると、2016年の人民法院における知的財産権事件裁判業務の特徴として、事件数が最高記録を更新したこと、審理の難易度が次第に上がってきていること、裁判の質と効率が徐々に向上していること、賠償額の水準が上がっていること、の4点が挙げられている。

重点措置として15テーマ打ち出す

「中国法院知的財産権司法保護状況(2016年)」と併せて、最高人民法院は「中国知的財産司法保護綱要(2016~2020)」を発表した。同綱要は、発展状況、指導思想、基本原則、主要目標、重点措置の章で構成されており、最高人民法院から専門の裁判分野に関して初めて制定・公布された保護綱要となる。重点措置として以下15のテーマが打ち出されており、知的財産権司法保護体制のさらなる整備が進められていくとみられる。

  1. 各種知的財産案件を公正で効率的に審理すること。
  2. 有効な仕組みを作り、法律の正確な運用を保障すること。
  3. 知的財産の民事、行政、刑事裁判の「三合一(三位一体)」を全面的に推進すること。
  4. 知的財産案件の管轄制度を絶えず改善すること。
  5. 知的財産訴訟の証拠規則を適時に策定すること。
  6. 技術事実の究明の仕組みを絶えず改善すること。
  7. 知的財産の価値を十分に実現する、権利侵害に対する損害賠償制度を構築すること。
  8. 知的財産訴訟特別手続き法に関する問題の研究をすること。
  9. 知的財産裁判専門機関の健全化を推進すること。
  10. 知的財産案件の控訴の仕組み構築の研究をすること。
  11. 知的財産の判例を参照・活用できる制度を積極的に推進すること。
  12. 知的財産紛争解決のための多元化した仕組みの構築を推進すること。
  13. 知的財産の司法公開を全面的に推進すること。
  14. 国際交流・協力を引き続き強化すること。
  15. 質の高い知的財産判事チームをつくること。

(赤澤陽平)

(中国)

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