新VAT法が7月1日施行、税収増を見込む-2017/2018年度国家予算案(2)-

(バングラデシュ)

ダッカ発

2017年06月22日

2017/2018年度の当初予算案では、歳入の72%を税収で賄う方針で、抜本的な税制改正が行われる。特に、7月1日に新たな付加価値税(VAT)法が施行され、一部の税率が大幅に上昇することから、低中所得者への影響が懸念されている。連載の後編。

税収は前年度比31.8%増が目標

2017/2018年度(2017年7月~2018年6月)の当初予算案に、前年度(概算)比26.2%増となる約4兆27億タカ(約5兆6,000億円、1タカ=約1.4円)が計上された。税収の内訳は図のとおりで、72%に当たる2兆8,799億タカは歳入庁(NBR)による税収としており、前年度比31.8%増を見込む。ムヒト財務相は「バングラデシュのGDPに対するVATの割合は過去25年間で3.58%を上回ったことがなく、南アジアの周辺国の中で最低水準だ」と指摘。徴税システムを変更し、2017/2018年度は4%に引き上げる。

2017/2018年度予算案では、7月1日から施行となる新VAT法による税収増が見込まれている。税率を一律15%とする新VAT法は2012年に制定されたが、産業界などからの反対を受け施行が延期されていた。4~5%だった衣類やスーパーマーケットでの購入にかかるVATをはじめ一部の税率が上昇することに対し、低中所得者への負担が増すとの批判に対し、ムヒト財務相は、現行法に比べ2倍近い免税項目を設けるなどしており、物価に大きな影響はないとしている。

図 2017/2018年度の税収内訳 (出所)バングラデシュ財務省

衣料品製造業の法人税率引き下げ

税率改正に伴う直接税の主な変更点は以下のとおり。

(1)個人所得税率は、障害者向けの免税上限のみ引き上げられた。そのほか変更はない。

(2)法人税は以下の変更があった。

a.衣料品製造業の法人税が20%から15%へ引き下げられた。さらに、環境負荷の低い縫製工場と認定された場合は14%になる。

b.2011年7月1日から2019年6月30日までに登記し、官民連携(PPP)方式により高速道路や高架道路などのインフラを建設する企業は法人税が10年間減免される。

c.社会的責任に関する分野に対する免税措置について、老人介護施設の運営益に対する免税などが追加された。

d.ダッカ管区マイメンシン地区に新設される製造業企業がタックスホリデー(一時的な税の減免)の対象外となった。

e.会計年度終了後の7カ月目の15日、または9月15日までに会計報告を提出する必要がある。

(3)輸出代金の受け取り時に控除される源泉所得税(Source Tax)が、全ての製品に対して0.7%から1.0%に引き上げられた。輸出志向型企業の場合、法人税は源泉所得税と法人税のうち高い方が課せられる。しかし、主要輸出産業である縫製業界の団体、縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)は引き上げに反発している。

(4)無形サービス供与による収入に対して課せられる源泉課税(TDS)について、販売用の商品や製品の原料の調達は免税となる。

(5)2015/2016年度予算で金融機関などを除く全ての企業に対し、1年以内に会計年度を7月~翌6月に変更するよう義務付けたが、多国籍企業からの申し立てを受け、2016/2017年度末に取り消しとなる。2017/2018年度予算案にて、支店や駐在員事務所についても現地法人と同様、親会社の会計年度と統一できることが明記された。

VAT税率は一律15%に

また、間接税の主な変更点は次のとおり。

(1)VATの税率、納税システムなどが変更された。7月1日から適用になる。

a.全ての品目に対し一律15%のVATが課され、今後3年間変更されない。

b.HSコード別で1,043品目および公共サービスなどについてはVATが免除される。

・コメ、魚、肉、野菜、塩、砂糖などの必須食品536品目。

・救命救急に使用する医薬品93品目。

・農業、畜産、漁業に関連する物品の404品目。

・公共交通機関、公衆衛生および医療サービス、教育研修サービス。

c.以下に該当する企業はVATが減免される。

・年商360万タカ以下の企業。

・年商360万タカ超から1,500万タカ以下の企業は、売り上げに対し4%のVAT課税。

・冷蔵庫、エアコン製造、食用油、液化石油ガス(LPG)シリンダーの製造に係るVAT免除が2017年6月末から2019年6月30日まで延長された。

d.VATの申告、納税、還付申請をオンライン上で行うことができるようになり、申請については3月23日から開始している。オンライン化に伴い、各事業者は納税などに必要な事業者登録番号(BIN)を再取得する必要がある。インターネットに接続できない企業は全国16カ所に設置されるオンラインサービスセンターから申告できる。また、各地の税務署、税関にVATのヘルプデスクが設けられるほか、VATの問い合わせ専用コールセンターも設置される。

(2)VATと同時に規定される補足税(SD)について、以下のような変更があった。SDは健康を害するとされるたばこなどに対して課せられるほか、国内産業を守るため、輸入品に対して関税や付加価値税に乗じて課せられるものもある。輸入品に課せられるSDについては後述の(4)を参照。

a.10本当たり20~30タカ台の廉価なたばこについて、国産ブランドのSDを50%から52%に、海外ブランドのSDを55%に引き上げる。

b.ファストフードに対して10%のSDが課せられる。

(3)銀行取引および航空券に課される特別消費税が表1のように変更された。

 表1 銀行取引および航空券に課される特別消費税の変更点(2017年7月1日~)

(4)輸入関税については、表2の品目に対する税率が変更された。6月1日から即日適用。

また、輸入品にかかるSDの税率が、11種類から8種類に変更された(注)。原則として、10%の品目は課税対象外となった。20%、30%の品目は25%に、45%、60%の品目は50%に統合された。

表2 輸入関税(CD)が変更となる主な品目
表3 輸入品にかかる補足税(SD)が変更になる主な品目

そのほか、インゴットやスクラップのCDが従量制ではなく、輸入価格に対して調整税(RD)およびVATが課せられるようになった。

輸入品への課税の変更点はバングラデシュ財務省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますバングラデシュ歳入庁(NBR)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのウェブサイトを参照のこと。

(注)SDは、11種類(10%、20%、30%、45%、60%、100%、150%、200%、300%、350%、500%)から、8種類(25%、50%、100%、150%、200%、250%、350%、500%)に変更された。

(参考)

輸入関税には以下の6種類の税がある。

(a)一般関税(CD):一般関税は、海外から輸入または海外へ輸出する財に課税される税金であり、輸入関税と輸出関税に分けられる。バングラデシュの関税は0~25%と幅があるが、一般的に0%、1%、2%、5%、10%、そして最高税率の25%のどれかと定められている。輸入関税は、CIFに1%の陸揚げ費用を加算した額(CIF+1)に対して課税される。また、当該輸入品を加工し輸出した場合に還付を受けることができる。

(b)調整税(RD):調整税は輸入品のCIF+1に対して課される間接税の一種。課税されない品目もある。

(c)補足税(SD):補足税は、輸入品のCIF+1ならびにCDとRDを課した額に対して課税される。税率は25~500%と高率で、国内産業や市場への影響を抑制する目的で導入されている。

(d)付加価値税(VAT):付加価値税は、輸入品のCIF+1にCD、RD、SDを課した額に対して課税される。税率は15%だが課税されない品目もある。

(e)前払い貿易付加価値税(ATV):前払い貿易付加価値税は、輸入品のCIF+1にCD、RD、SD、VATを課した額に対して課税される。税率は4%に固定されているが、原材料や部品、機械などに対しては、仕入税26.66%に乗じた額に対して課税される。課税されない品目もある。

(f)前払い所得税(AIT):前払い所得税は、CIF+1に対して課税される。税率は5%で固定されているが、課税されない品目もある。当該輸入品を加工し輸出した場合、同税額は還付することができないが、所得税から相殺調整することができる。

(古賀大幹)

(バングラデシュ)

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