5万ドルを超える送金は税務局への事前届け出が必要-会計・税務セミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2017年06月30日

ジェトロが北京市と天津市で開催した会計・税務セミナー報告の後編。北京・天津大野木マイツ諮詢の平出和弘総経理が解説した海外送金の問題と質疑応答を紹介する。

3分類される送金の難易度

中国から日本本社への送金が難しい、という声がある。しかし、全ての送金が難しいわけではなく、(1)資料があれば送金できるもの、(2)当局への許可・届け出手続きがされていれば送金できるもの、(3)送金できないもの、の3つに分類される。

「資料があれば送金できるもの」の例としては、輸出貿易代金、現地法人からの配当金、駐在員の日本円支給給与がある。配当金は、董事会決議を経て利益準備金の積み立て、10%の源泉課税などの手続きを踏めば送金できる。給与は、中国で正しく個人所得税を申告していることが条件となる。いずれも1回の送金が5万ドルを超えると、税務局への事前の対外支払税務届け出が必要となる。契約が必要なものは契約書があること、納税が必要なものは納税が済んでいることが基本的な考え方となる。

「当局への許可・届け出手続きがされていれば送金できるもの」の例としては、サービスフィー(技術支援費、コンサルティング料金など)、ロイヤルティーが挙げられる。目に見えない非貿易取引は、価格の妥当性の立証が難しいこと、対価の受領者が海外(日本本社)であるため、中国の税務局が送金前に源泉徴収というかたちで日本の利益に対して課税することから、物理的なモノがある貿易取引やいったん中国で課税された利益の配当金と比べると、送金がやや難しい。

「送金できないもの」には、給与以外の日本親会社立替金、通関していない貿易代金がある。

サービスフィーの海外送金には注意を

海外送金できることと、送金の内容に税務上の問題がないことは、別の問題だ。サービスフィーを海外送金する際、税務局はまず、サービスの実態があるか、サービスの価格が適正かを確認する。親子会社間の取引であっても契約書を交わし、税務局に説明できるよう取引価格算定の根拠資料を準備する必要がある。次に、サービスフィーを継続して送金する場合、親会社が中国に登記した法人がなくても人を派遣することで恒久的施設(Permanent Establishment:PE)があると税務局に見なされる可能性がある。PEと認定された企業の納税義務はサービスフィーに対する企業所得税に加えて、派遣されてきた人の個人所得税にまで及ぶことになるため、当該親子会社間取引がPEと認定される可能性があるかについて検討し、リスクを本社に提示しておくことが望ましい。

現地法人で費用負担する合理的な根拠があいまいな状況がある場合、税務局で費用否認される可能性があることを踏まえ、グループ全体で送金の要否を総合的に判断することとなる。

会計従業資格保有者制度は現在見直し中

参加者からの主な質疑と、平出講師の回答の概要は以下のとおり。

(問)駐在員事務所は本社のための活動のみ認められているが、グループ会社のための活動は可能か。

(答)厳密に言うと本社のための活動のみで、グループ会社のために活動はできない。グループ会社から本社への業務の依頼があり、駐在員事務所が本社のための活動として行う限りでは問題ないと思われる。

(問)従業員の通勤交通費や食事手当は個人所得税の課税対象か。

(答)日本では、通勤費と出張時の日当は課税対象外だが、中国では、通勤費や食事手当は発票を取得していても課税対象となる(発票の有無で、企業所得税法上の損金算入・不算入が問題となるが、発票がなくても給与として個人所得税を処理すれば損金算入される)。

(問)中国会計法第38条で、「会計業務に従事する担当者は会計従業資格証書を取得しなければならない」と規定されているが、会計従業資格保有者が社内にいない場合、罰則はあるか。

(答)厳格な運用はされていない。同第36条で、会計代理記帳業務の外部委託が規定されており、記帳、税務を外部に委託していれば、自社に会計従業資格保有者を抱えなくてもよい。なお、会計従業資格の制度は現在、見直されており、今年は試験が中断されている。

同第37条の「出納と記帳が兼務できないこと」と、第38条の「会計業務に従事する担当者は会計従業員資格証書を取得しなければならない」との規定から、中国では、各社とも会計人員を2人以上雇用する必要があると解釈されることがあるが、出納と記帳を分けて牽制機能を働かせることが目的なので、新設企業や少人数の企業では会計従業員資格のない駐在員が出納責任者になるなど、会計専門の人員をすぐに2人以上雇用せず対応することも実務上の対応としてはあり得る。また、会計と出納の部屋を区分する必要はない。

(問)税務局による個人所得税の源泉徴収奨励金とはどういうものか。

(答)源泉徴収方式による税目について、計算・源泉徴収・納税を適正に行うことに対する奨励金として、企業が税務局に申請すれば、企業が納付した個人所得税額の2%が税務局から企業の納税口座に振り込まれるもの。中国個人所得税法の第11条で規定されている。年1回決められた期間に申請を受け付けている。税金の還付ではなく、源泉徴収の奨励金なので、原則として収入扱いで課税対象である点に注意が必要。

(問)親会社による技術支援が日本国内のみで行われる場合も、PE認定を受けるリスクはあるか。

(答)技術支援の役務が中国で行われていない場合、PE認定を受けないが、契約書に役務地が日本国内のみであることを明記しておくとよい。なお、日本国内での役務に対し、中国の企業所得税はかからないが、増値税(付加価値税)は課される。業務内容からして明らかに中国に入国して対応しないと成り立たない業務だ、と税務機関が主張するケースもあるので、その場合には、当契約業務での入国対象者がいないことを証明する必要がある。

(日向裕弥)

(中国)

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