メディケイドへの支出削減や政府全般の合理化を提唱-2018年度予算教書の詳細を公表(2)-

(米国)

ニューヨーク発

2017年06月13日

トランプ大統領による2018会計年度予算教書では、政策の優先事項を前政権から大幅に見直し、国防費やインフラ投資などの重点分野に対する歳出拡大を図る一方、メディケイドへの支出削減や政府全体の合理化などを通じて、義務的経費や裁量的経費の多くの分野において歳出抑制を行う案が提唱された。連載の後編では、主要項目別に予算の具体的な中身をみる。

メディケイドなど義務的経費を中心に歳出抑制

トランプ大統領の就任後初となる2018会計年度の予算教書では、政策の優先事項を前政権から大幅に見直すことで、今後10年間で累計3兆5,630億ドルの歳出抑制を図る案が示された(注)。これにより、政府債務残高を、オバマ前政権の経済対策が実施された2010会計年度のGDP比(60.9%)を下回る水準まで引き下げ、子供や孫の世代に持続不可能な水準の負債を残さないとの方針を示した。共和党保守派で下院自由議員連盟(フリーダム・コーカス)議長のマーク・メドウズ下院議員(ノースカロライナ州)は今回の予算教書について、「ここ数十年の共和・民主党政権下における予算の中で、恐らく最も保守的な予算だ」と述べた(「ニューヨーク・タイムズ」紙5月22日)。

歳出抑制策は、義務的経費と裁量的経費の全般にわたって提唱されている。義務的経費については、メディケイド(低所得者層向けの公的医療保険)改革、福祉制度改革(フードスタンプへの支出削減など)、オバマケア(医療保険制度改革)の撤廃・代替など、社会保障分野を中心とした政策変更により、今後10年間で累計1兆9,700億ドルの収支改善を図る案となっている(表参照)。

表 主な政策実施を通じた財政赤字削減効果(単位:10億ドル、△はマイナス値)
政策 内訳 金額
1.義務的経費など(注1) メディケイド改革など △ 616
福祉制度の改革 △ 272
オバマケアの撤廃・代替 △ 250
学生ローン改革 △ 143
政府全体の不適切な支出の削減 △ 142
障がい者向けプログラムの改革 △ 72
農業補助金の削減などの農政改革 △ 38
その他の支出減など △ 437
小計 △ 1,970
2.裁量的支出の優先順位付けによる支出減 △ 1,997
3.重点課題への支出増 国防費(裁量的支出)の歳出上限引き上げ 469
1兆ドル規模の民間/公共インフラ投資に対する支援 200
その他の重点課題への支出増 48
小計 717
4.債務返済や利払い費の変動による影響 △ 311
1~4の合計(歳出抑制などを通じた収支改善効果)(注2) △ 3,563

(注1)政策実施を通じた歳入の変動による影響も含まれている。
(注2)10億ドル以下未公表のため、1~4の単純合算と合致しない。
(出所)行政管理予算局

トランプ大統領は選挙期間中に、メディケイドの関連予算は削減しないことを公約に掲げていたが、2017年5月初めに下院を通過したオバマケアの撤廃・代替法案において、受給条件の厳格化が盛り込まれたことを踏まえ、歳出削減策の大きな柱に盛り込んだ。フードスタンプとして知られる補助的栄養支援プログラム(SNAP)については、連邦政府の支出を減らし、州政府による自主的な制度運用が図られるよう変更を行うとした。また、貧困家庭向け一時援助金プログラムの受給者への支給厳格化など、真に必要な世帯にのみ給付が行き届くようにすることで、働くことのできる労働者が仕事に就くことにもつなげるとした。社会保障以外の分野でも、農業補助金(10年間で380億ドル減)、学生ローン(10年間で1,430億ドル減)などの分野における歳出削減が掲げられた。

これにより、10年後の2027会計年度における義務的経費はGDP比12.6%となり、2016会計年度の13.2%から低下するとしている。主な内訳として、社会保障やメディケア(高齢者層向けの公的医療保険)は緩やかな増加を見込む一方、メディケイドやフードスタンプへの支出削減を含むその他義務的経費は、2027会計年度にそれぞれGDP比1.7%、2.2%に縮小する見通しだ(図参照)。

図 義務的支出の項目別見通し(GDP比)

裁量的支出については、政府の再編・合理化などを通じて、非国防費を中心に歳出削減を行い、今後10年間で累計1兆5,280億ドルの収支改善を図る案とした。裁量的支出のうち、歳出上限の対象となる経費については、法定上限と比べて毎年2%程度伸びを抑えることも盛り込まれた。これにより、10年後の2027会計年度における裁量的経費はGDP比3.7%となり、2016会計年度の6.4%から低下する見込みとなっている。

国防や国民の安全、インフラ投資などの重点分野支出は拡大

大幅な歳出抑制策が提唱された一方、国防や国民の安全、インフラ投資の支援といった重点分野については、歳出の拡大が盛り込まれた。

裁量的支出全体の削減を目指す中で、国防費については法定の歳出上限を上回る支出増が盛り込まれた。また、2018会計年度には、メキシコ国境沿いの壁建設費用として、16億ドルが計上された。トランプ大統領は、米国人の安全を守り、テロリストから国家を守り、暴力的な犯罪者を閉じ込めることに注力し、米国の強さと決意を世界に明確なかたちで発信するとした。一方、関連部署の業務プロセス改善、無駄な歳出削減などを通じて、可能な限り、軍事計画の実効性や効率性を損なうことなくコスト削減を図るとした。

インフラ投資について、これまでもトランプ大統領は、10年間で1兆ドルの投資を実現するとの方針を示していた。予算教書では、連邦政府が2,000億ドルを支出する一方で、民間部門や州・地方政府による少なくとも8,000億ドルの投資にインセンティブを付与することで、合わせて1兆ドルの投資を実現するとした。このほか、子供の出産もしくは養子を迎えた家族に対して、6週間の有給休暇を付与する新たな育児休暇制度創設のため、250億ドルの予算が計上された。

予算教書については、共和党内の財政保守派の議員から評価する声が聞かれる一方で、一部の共和党議員や民主党議員からは低所得者層向けの支出削減に対して異論を唱える声も聞かれている。上院少数党院内総務のチャック・シューマー議員(民主党、ニューヨーク州)は、「(トランプ大統領は)農村部や低所得層の人々を対象とした政府プログラムへの支出を削減することで、自らの支持者を傷つけることになるだろう」と述べた(「ウォールストリート・ジャーナル」紙5月23日)。大統領の予算教書が公表された後、上下両院の予算委員会における予算決議案作成に向けた議論が進められることになっており、議会での審議の行方が注目される。

(注)予算教書で掲げられた政策実施による、経済環境への影響が織り込まれた「ベースライン」ケースからの改善幅。

(権田直)

(米国)

ビジネス短信 8da50edcb6caa171