メイ政権の政策運営に転換求める-総選挙結果に対する産業界の反応-

(英国)

ロンドン発

2017年06月12日

「ハングパーラメント(宙づり議会)」となった下院総選挙(6月8日)の結果を受け、英国の金融市場は大きく動揺した。産業界は政治的不安定さから生じるビジネス環境の不確実性を警戒する一方で、EU離脱交渉に当たって「ハードブレグジット(強硬なEU離脱)」路線が転換されることへの期待も寄せられている。

為替市場、株式市場ともに大きく反応

与党・保守党が議会過半数を失いハングパーラメント状態に陥ったことにより、金融市場は大きく揺れた。EU離脱交渉を含め、今後の政治的な不確実性が高まったことなどが影響し、外国為替市場では、開票前の6月8日に1ポンド=1.3ドルだったのが、開票後の6月9日には1ポンド=1.275ドルと、2%強下落した。

一方、株式市場では、ロンドン市場の主要銘柄で構成されるFTSE100が6月9日に、前日終値より一時1.3%近く上昇した。FTSE100構成銘柄はグローバル企業が多く、ポンド安が輸出を押し上げることへの期待感が作用したものとみられる。ただし、内需中心の銘柄も含まれるFTSE250は一時値を下げており、ここにも国内経済の先行きの不透明性が反映されたかたちだ。

重要課題には超党派で対処をと注文

金融市場が大きく反応したことなどを受け、産業界はビジネス環境に不確実性が生じることへの警戒感を示している。

まず、英国商工会議所(BCC)によると、産業界は2016年6月の国民投票以降の政治的不安定性から生じる影響の低減に向けて奮闘してきたものの、今回の結果を受け、「政治的雑音を無視することが困難になるのは明らか」とした。また、英国産業連盟(CBI)は「新政権は、英国の全ての地域の国民に、オープンで競争力のある公平な、EU離脱後の経済をもたらす必要がある」としつつ、「経済に再び焦点を当てる時が来た」と述べ、政策アプローチの転換を求めた。英国経営者協会(IoD)はハングパーラメントの下での政権運営に注文を付け、「保守党が政権運営を行うに当たっては、そのマニフェストを全面的に履行するに足る信任を得ていないことを自覚せねばならず」、重要課題に対しては「与野党ともプライドを抑え、超党派で動かなくてはならない」とした。

小規模企業連盟(FSB)はEU離脱交渉に言及し、「交渉に当たっては、EU単一市場へのアクセスに焦点を当てねばならない」と、メイ首相のハードブレグジット路線の転換に期待を寄せた。これは英国製造事業者連盟(EEF)も同様で、「EU離脱交渉戦略は慎重な再考が迫られている」と、選挙結果はこれまでの交渉戦略を否定するものだとの見方を示した。しかし、EU離脱交渉の開始時期などについての産業界の考え方は必ずしも一枚岩ではない、とも報じられており、今後の交渉アプローチに産業界としての考え方を反映させることが必ずしも容易でないこともうかがえる。

(佐藤央樹)

(英国)

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