ハガティ氏、対日貿易赤字縮小に意欲-駐日大使に指名、上院外交委の公聴会で所信表明-

(米国、日本)

米州課

2017年06月07日

米上院外交委員会は5月18日、トランプ大統領が駐日大使に指名したウィリアム・F・ハガティ氏に対する公聴会を開いた。同氏は、大手コンサルティング会社での勤務や政権スタッフとしての経験があり、日本駐在や日本企業の投資誘致に取り組んだこともある。公聴会では通商分野の質問が相次ぎ、同氏は対日貿易赤字縮小に取り組む考えや、知的財産権などにおける日米連携強化を表明した。上院で速やかに承認される見通しだ。

日本駐在経験もあるビジネスパーソン

ハガティ氏(52歳)はビジネス経験が豊富で、1984~1990年にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に勤務し、直近は自ら設立した投資会社を運営している。BCG時代には東京に3年間駐在した。ブッシュ(父)政権下では、ホワイトハウスの通商担当スタッフに従事するなど、政界とのつながりも深いとされる。

日本との関係では、ハガティ氏が2011年に出身地のテネシー州の経済開発責任者に就任した際、日産やブリヂストンなどの投資誘致に取り組んでいる。2012年10月にジェトロが同州で主催した「ものづくりセミナー」では、「日系企業の進出は非常に重要。労働者に先進的なトレーニングを施し、新しいスキルと収入増をもたらしてくれる」「日産やブリヂストン、デンソー、カルソニックカンセイはテネシーの労働者に投資してくれる素晴らしいテネシー企業だ」などと述べている。

ハガティ氏は2016年の大統領選挙予備選で、当初はブッシュ元フロリダ州知事を支援したが、同氏撤退後にトランプ氏支持に回り、7月からは政権移行チームの人事担当ディレクターに就任した。政治任用ポストを管轄するなど、トランプ政権に貢献している。

議員から産業ごとの改善要望が噴出

公聴会の冒頭でハガディ氏は、2月の安倍晋三首相の訪米のほか日米の閣僚級が次々に会談していることを引き合いに出し、「トランプ政権はその言動を通じて、日本との同盟、パートナーシップ、友情が重要であることを明示している」と述べた。また日本との関係について、「4万人のテネシー州民が日本企業に直接雇用され、外国企業による同州への直接投資の6割を日本が占める」と、日本の米国経済への貢献をたたえた。

一方、大使就任後の目標については、「米企業のために輸出機会の創出や日本市場へのアクセス改善に取り組み、対日赤字を減らしたい」と証言するなど、トランプ大統領の方針に沿って市場アクセス改善を求める考えを示した。

上院議員の質問は主に通商分野に集中した。ジョン・バラッソ議員(共和党、ワイオミング州)は、選出州の主要産品である牛肉(日本の輸入関税率:38.5%)とガラス製品などの原料となるソーダ灰(3.3%)について、取り組みを聞いた。ハガティ氏は牛肉の関税の仕組みは複雑としつつ、「改善に向けて取り組む」と述べ、ソーダ灰も優先的に対処するとした。バラッソ議員は、牛海綿状脳症(BSE)問題後、日本は2006年に米国産牛肉の輸入を解禁したが、現在輸出可能なのは月齢30ヵ月以下で、この制約が米国の競争力を阻害していると改善を促した。また、別の議員から鶏肉の市場アクセスを問われたハガティ氏は、「完全な市場アクセス」を確保すると約束した。

ロブ・ポートマン議員(共和党、オハイオ州)から、米国製自動車が日本市場に浸透しない理由を問われたハガティ氏は「私が日本で生活していた時、自動車産業は非常に複雑な流通システムを形成していた。規制調和の問題もある」と答えた。ポートマン議員は、日本が米国の安全基準との調和を試みないことが米国製自動車の市場参入を難しくしているとの考えを示し、ハガティ氏は、日本の自動車業界とは個人的なつながりもあり、米メーカーの参入に役立つと述べた。

ジェフ・マークリー議員(民主党、オレゴン州)の対日貿易赤字に関する質問に対して、ハガティ氏は「貿易赤字上の障壁に多大な注意を払う」「産業別のアプローチを志向する。仮説に基づくアプローチと違って、現実的に進展を得ることができる」と語った。重点的に取り組む産業として液化天然ガス(LNG)などは「対日エネルギー輸出は貿易赤字に対して即時的な効果をもたらす」としたものの、農業分野については懸念もあるとした。

他方で、「日本は中国向け輸出を多く行っており、知的財産権の面で米国同様、強い懸念を有している」「アジア地域における知財などの分野で連携できる」など同分野での連携を深めていく考えを示し、「最大のチャンスは、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉で得た進展の中にある。TPPの幾つかの要素は、進行中の日米経済対話において良い土台になるだろう」と述べ、TPPを一部ベースに今後の交渉に取り組むことを示唆した。

公聴会では同氏の駐日大使としての正当性を疑問視する声は特に上がらず、ボブ・コーカー上院外交委員長(共和党、テネシー州)は可及的速やかに承認を求める意向を示している。

(藪恭兵)

(米国、日本)

ビジネス短信 46df831435387921