新たな外貨発給システム「DICOM」が始動

(ベネズエラ)

米州課

2017年06月19日

ベネズエラで新しい外貨発給システムが始まった。ベネズエラには公式に2つの外貨発給システムが存在するが、その1つSIMADIが「補足的なフロート制為替レート(DICOM)の外国為替」に代わる。5月25日から31日にかけて行われた1回目のDICOMの為替レートは1ドル=2,100ボリバル。SIMADIの為替レートは1ドル=728ボリバル(5月22日時点)だったことから、大幅なボリバル安になった。ラモン・ロボ経済財務相は並行レート撲滅のためにDICOMを始めると発言しているが、外貨発給額が少なく、並行レートの撲滅は難しそうだ。

手続きの簡素化や透明性の向上がメリット

ベネズエラには、公式に2つの為替制度が存在している。1つは食料品や医薬品など生活必需品を輸入する際に適用される1ドル=10ボリバルのDIPRO(ディプロ)という為替レート。もう1つはそれ以外の財・サービスを輸入する際に適用されるSIMADI(シマディ)という為替レート。SIMADIは変動相場制で、5月22日の為替レートは1ドル=728ボリバルだった。この2つの外貨制度のうち、SIMADIがDICOM(ディコム)という為替制度に代わる。

DICOMとSIMADIとの大きな違いは、外貨発給の実施頻度が減ったこと、DICOM申請者の情報が公開されるようになったこと、DICOMを通じて外貨にできる金額に上限が設けられたこと、申請手続きが簡素化されたこと、申請できる為替レートの上限と下限が明示されるようになったこと、だろう。

ラモン・ロボ経済財務相の発言によると、DICOMを通じた外貨発給は1週間に1回から2回の頻度で実施される。SIMADIは土・日・祝祭日を除き、平日は毎日運用されていた。DICOMに代わることで、外貨発給を受けられる機会が減った点はデメリットといえる。

また、DICOMには法人、個人ともに外貨の発給を受ける金額の上限が決まっている。法人は、直近の法人所得税納税の際に申請した平均月間収入の30%分まで毎月落札することが可能だ。ただし、各月で40万ドルが上限とされている。個人は、3ヵ月間で最大500ドルまで外貨に両替できる。つまり、年間2,000ドルが上限となる。これまでSIMADIには、外貨にできる金額の上限は存在しなかった。金額が制限されたこともデメリットだろう。

DICOMに代わって改良された点は、SIMADIよりも透明性が高まったことだ。SIMADIは誰がいくら外貨にしたかが分からなかった。国民の間では、SIMADIはブラックボックスで、外貨を得られるのは政府に近い人間ばかり、との臆測が出ていた。

DICOMは、外貨を発給する企業の名前、法人番号、その使用目的までウェブサイトで公開する。同様に、DICOMに申請したが、外貨の発給を受けることができなかった法人について、発給されなかった理由が公開される。個人についても、名前を除き、身分証明書番号、発給額、発給された外貨の使用用途が公開される。

もう1つのメリットは申請手続きの簡素化だ。これまでSIMADIで両替をするためには多くの書類を金融機関に提出する必要があった。しかし、DICOMは全ての申請がウェブ上で完了する。手続きが簡易になったことは大きなメリットだ。

このほか、DICOMでは中央銀行が、応札できる為替レートの下限と上限をあらかじめ明示するようになった。実際に第1回、第2回のDICOMでは、応札者は1ドル=1,800ボリバルから2,200ボリバルの間で申請しなければ外貨は発給しないと明記されていた。下限と上限を明示することで、中央銀行が為替レートを誘導しやすくなるメリットがある。

圧倒的に不足しているDICOMの外貨供給

1回目のDICOMを通じて供給された外貨は、合計2,410万2,981ドルだった(表1参照)。うち、法人へは2,294万5,094ドル、個人へは115万7,887ドルの外貨が供給された。法人の使用用途の多くは原材料、最終財、部品・材料の輸入で、債務の返済やサービス購入のための外貨供給は少ない。個人は貯蓄・送金・旅行が使用用途の4分の3を占めた。為替レートは1ドル=2,100ボリバルだった。

表1 法人・個人の使用用途別外貨供給額(第1回DICOM)(単位:%、ドル)
分野 外貨の使用用途 割合 想定される金額(注1)
法人 原材料の輸入 35.6 8,168,453
最終財の輸入 35.6 8,168,453
部品・材料の輸入 17.6 4,038,337
資本財の購入 3.3 757,188
その他(注2) 7.9 1,812,662
合計 100.0 22,945,094
個人 貯蓄・送金・旅行 75.0 868,415
ネット購入 13.0 150,525
医療 9.0 104,210
留学 3.0 34,737
合計 100.0 1,157,887
総計 24,102,981

(注1)発表された「割合」は小数点2桁以下が不明なため「想定される金額」と「 本来の金額」 には誤差がある。
(注2)各項目の小数点2桁以下の端数は「その他」で調整。
(出所)ベネズエラ中央銀行

6月1日から6日にかけて行われた2回目のDICOMを通じた外貨発給では、法人へ2,068万2,952ドル、個人へは311万8,245ドルの外貨が供給された(表2参照)。法人の使用用途の割合は、1回目と比較すると原材料、部品・材料の輸入が増え、最終財の輸入が減った。個人については、貯蓄と海外旅行とで使用用途の4分の3近くを占めた。なお、申請プロセスは1回目のDICOMと違いはなかったが、為替レートは1ドル=2,161ボリバルとややボリバル安に動いた。

表2 法人・個人の使用用途別外貨供給額(第2回DICOM)(単位:%、ドル)
分野 外貨の使用用途 割合 想定される金額(注1)
法人 原材料の輸入 39.3 8,128,400
最終財の輸入 26.9 5,559,577
部品・材料の輸入 24.7 5,098,348
資本財の購入 7.2 1,491,241
その他(注2) 2.0 405,386
合計 100.0 20,682,952
個人 貯蓄 36.5 1,138,159
海外旅行 35.9 1,119,762
送金・ネット購入・留学 19.1 595,585
医療 8.5 264,739
合計 100.0 3,118,245
総計 23,801,197

(注1)発表された「割合」は小数点3桁以下が不明なため「想定される金額」と「 本来の金額」 には誤差がある。
(注2)各項目の小数点3桁以下の端数は「その他」で調整。
(出所)ベネズエラ中央銀行

これまで2回のDICOMが行われたが、それぞれの外貨供給額は2,500万ドル弱だった。仮にDICOMが1週間に1度実施されるのであれば、1ヵ月に約1億ドルが民間部門に供給されることになる。

ベネズエラ中央銀行は2015年第3四半期以降、民間部門の輸入額を更新していないが、2015年1~9月の民間部門の輸入総額は140億ドルだった。1ヵ月に1億ドルでは民間の外貨需要を補うことができないことは明らかだ。DIPROは食料品や医薬品など生活必需品の輸入のための為替制度で、それ以外の財・サービスの購入はDICOMを通じて外貨を得る必要がある。DICOMの外貨発給額が1ヵ月で1億ドルにとどまるのであれば、国民の外貨需要は満たされず、満たされない外貨需要は並行レートに流れる。

ラモン・ロボ経済財務相はDICOMを始める狙いの1つとして並行レートの撲滅を掲げているが、DICOMがこれに寄与する可能性は低いといえそうだ。

(松浦健太郎)

(ベネズエラ)

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