日EU・EPAは最も優先すべき通商交渉の1つ-欧州委の通商担当委員が見解-

(EU、日本、カナダ)

ブリュッセル発

2017年06月01日

欧州委員会は5月30日、セシリア・マルムストロム委員(通商担当)が欧州労働組合連合(ETUC)に宛てた連絡文書を公開した。この中で、日EU経済連携協定(EPA)の交渉が最終段階に入ったと言及し、同EPAについて「われわれが最も優先すべき通商交渉の1つ」と総括した。他方、ETUCはEUが交渉する全ての自由貿易協定(FTA)において厳格な労働者の権利保護などを求める姿勢を強めており、そうした点への配慮が今後のEU加盟国でのFTA批准プロセスで重要な意味を持つ、との見解を欧州委に対して示している。マルムストロム委員は今回の連絡文書において、6月末までに欧州委通商総局としてETUCとの意見交換の機会を設ける意向を示した。

日EU・EPA交渉が最終段階に

欧州委のマルムストロム委員は5月30日、ETUCのルカ・ビセンティーニ事務局長に宛てた連絡文書を公開し、現在交渉中の日EU・EPA/FTA締結に向けた強い期待感を表明した。

マルムストロム委員は、「われわれが2017年の可能な限り早い時期の妥結を望んでいる日EU・EPA/FTAの交渉は最終段階に入った」としている。また、同委員は日EU・EPA/FTAについて「現時点でわれわれが最も優先すべき通商交渉の1つ」と表現し、「新たな市場が開かれることで、EUにおける成長と雇用を労働者や農業事業者、企業にもたらすことが期待できる」と指摘した。日EU・EPAが成功裏に妥結すれば、EUが進めているその他の先進的な通商交渉と同様に、EUと日本の間で、労働・社会・環境基準などの観点で共通基盤を形成する好機となるとの考えを示した。

労働者の権利保護への配慮求めるETUC

今回、マルムストロム委員の連絡文書が公開された背景には、ETUCが欧州委に対して同交渉に対する事情説明を求めていたことがある。欧州委としても、交渉が最終局面に入った段階で、欧州を代表する労働団体の認識を把握しておきたい事情もあったと考えられる。これに対して同委員は、自身を含めて欧州委通商総局として、6月末までにETUCとの意見交換の機会を設ける意向を示している。

なお、ETUCは2月28日付で、EU・カナダ包括的経済貿易協定(CETA)における「貿易と持続可能な開発(TSD)」条項についてのマルムストロム委員の考えを問う意見書を送付している。この中で、ETUCとして、CETAに限らずEUが交渉する全てのFTAにおいて「TSD条項の実効性(の確保)」を求める姿勢を明確にしている。ETUCは、労働者の権利保護など「TSD条項の実効性を担保するためには、罰則を伴う一般紛争解決メカニズムの導入を検討すべきだ」とした上で、「大西洋両岸(EUとカナダ)の労働者の利益を反映するよう、カナダ労働会議(カナダ側の労働団体)とも広範な連携を進めている」としている。そして、現行のTSD条項に問題がある場合、必要に応じて見直しを行えれば、今後のEU加盟国での批准プロセスの枠組みにおいて、ETUCもCETAを支持できるとの考えを示した。

(前田篤穂)

(EU、日本、カナダ)

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