マンチェスターで爆破テロ、観光や総選挙に影響も

(英国)

ロンドン発

2017年05月25日

 北部イングランドの中心都市マンチェスターで5月22日に爆破テロ事件が発生した。警察の発表によると、同市出身の男による自爆テロで、22人が死亡、64人が負傷した。政府は23日に2度緊急対策会議を招集し、国内のテロ警戒レベルを最上位の「危機的(Critical)」に引き上げ、警備を強化した。観光や消費など経済のみならず、6月8日には総選挙が予定されており影響が懸念されている。

警戒レベルを最上位に引き上げ

テロ事件は5月22日夜、マンチェスターのコンサート会場の入り口付近で発生し、有名歌手のコンサート帰りの若者の多くが巻き込まれ、犠牲となった。テレーザ・メイ首相は23日に会見を行い、「冷酷な計算により、若者がターゲットとされた」と述べた。犠牲者の中には8歳の女の子も含まれているなど、社会に大きなショックを与えている。

政府は23日、緊急対策会議を2度開催し、統合テロリズム分析センター(JTAC)の判断に基づき、国内のテロ警戒レベルを最上位の「危機的」に引き上げた。イラクとシャームのイスラム国(ISIS)が犯行声明を出し、さらなるテロを予告しており、テロ攻撃が差し迫っていると判断した。これに伴い、国内各所の警備に警察のみならず軍も加わることとなった。ロンドン市内では各所でサブマシンガンで武装した警官、軍関係者が警備に当たっている。

警戒レベルが「危機的」まで引き上げられたのは3度目で、2006年の航空機爆破テロ未遂事件、2007年のロンドンとグラスゴーでの連続テロ未遂事件以来となる。過去2回は、容疑者が拘束されるなどして数日後に引き下げられたが、今回はいつまで続くのかめどは立っていない。

英国では3月22日にもロンドン中心部のウェストミンスター橋および国会議事堂でテロ事件が発生したばかり。テロ警戒レベルは上から2番目の「深刻(severe)」で、事件以降も警察は国内各地でテロを防ぐべく容疑者の摘発に努めていたが、今回のテロを防ぐことはできなかった。

現地報道によると、マンチェスターでのテロ事件直後の5月23日夜に、同市南部で3人の身柄が拘束されたほか、ロンドン郊外のスタンステッド空港でもシリアへ渡航しようとした男が逮捕された。イスラム諸国では5月27日からラマダン(断食月)が始まるが、近年、ラマダン月に多くのテロが発生していることから、日本の外務省も注意喚起を発出している。

総選挙のキャンペーンを一時中止

ロンドン市内の警備は厳戒態勢が敷かれているが、5月27日にはサッカーのFAカップの決勝戦、翌28日にはラグビーのプレミアシップ決勝戦が続けて予定されている。メイ首相は5月23日夜、「一般市民には過度に警戒してほしくない」と述べたが、こうしたイベントへの影響が懸念されている。

英国はこれから夏の観光シーズンを迎えることから、テロ事件によって観光客の流入に歯止めが掛かれば経済への影響も大きい。英国民がEU離脱の道を選んだ2016年6月の国民投票以来のポンド安により英国旅行に割安感が出ており、外国からの観光客は増加傾向にある。3月には単月で過去最高となる292万人が来訪し、来訪者の支出額も過去最高の15億1,000万ポンド(約2,190億円、1ポンド=約145円)だった。

また、6月8日の総選挙を前に、選挙キャンペーンが各地で展開されている。テロ事件を受けて、メイ首相と最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首はテロを非難する声明を発表し、選挙キャンペーンを自粛することを決めたが、報道によると、5月26日にも再開されるようだ。現在のところ、総選挙の実施延期までの話には至っていないが、警備の強化により各地でのキャンペーンに影響が出ることも予想されている。

なお、直近の世論調査では、与党・保守党の支持率がやや低下し、労働党の支持率が上昇しているが、一部報道によると、こうした危機に際しては国民の間で強力なリーダーシップを求める声が高まり、総選挙においても、内相として6年間の危機管理経験のあるメイ首相率いる保守党に有利に働くとの見方も出ている。

(佐藤丈治)

(英国)

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