政権公約の一般売上税引き下げと法人増税に着手-中南米の制度改定動向-

(ペルー)

リマ発

2017年05月29日

 ペルー政府は、国会審議を経ずに立法および公布を可能とする立法権限移譲法に基づき、経済活性化を狙いとする一般売上税(IGV)引き下げなどの税制改革に着手した。また、IGV引き下げに伴う税収減を補うための法人税引き上げで企業の税負担が増すこととなった。なお、IGV引き下げは、5月末時点の税収状況を基に最終判断される予定だが、7月からの引き下げ実施は困難とみられている。

一般売上税引き下げの7月実施は絶望視

2016年7月に発足したクチンスキー政権は、経済活性化政策の目玉として、消費税に相当する一般売上税(IGV)を18%から漸次15%まで引き下げる減税策を公約に掲げていた。IGVの引き下げで消費を活性化するとともに、IGVを納税しないインフォーマルセクターのフォーマル化を目指す。

今のところ7月に現行の18%から1ポイント引き下げて17%にする計画だが、拡大しつつある財政赤字のさらなる拡大を回避するため、一定条件を満たした場合に実行すると定められた。つまり、5月末時点のIGVの年間税収額(移動12ヵ月)がGDP比7.2%を超えた場合に引き下げることになる。この基準は2014~2015年の税収額をベースに、財政に影響を及ぼさない税収の水準つまり財政赤字をGDP比2.5%で維持する前提で設定された。

なお、2016年8月時点の経済財政省発表の「多年度マクロ経済枠組み(MMM)」によると、2016年から2017年にかけて経済は順調に推移し、GDP比7.2%の税収目標は達成可能の見通しだったが、2017年に入り経済成長へのマイナス要因が生じ、IGVの税収も落ち込んでいることから、7月の税率引き下げは絶望視されている。

経済成長鈍化の要因としてはまず、ブラジルのオデブレヒトによる贈賄事件が次々と明らかになったことが挙げられる。これにより、ペルー南部ガスパイプライン建設プロジェクトなどにコンソーシアムとして参画していた当該企業が除外、プロジェクトは中断され、2018年に再入札が行われることになった。また、エルニーニョ現象の影響を受け、太平洋側の特に農業地帯である北部を中心に記録的な豪雨が続いたことも大きい。3月には河川の氾濫や土石流、土砂崩れなどが発生し、道路の冠水や橋の損壊など、一部の地域では道路が通行止めになるなどの被害が発生した。政府は5月末の税収実績を精査した上で、IGVの引き下げについて新たに法案を提出し実現を目指す予定としている。

引き下げた法人税率が2年で引き上げに

政府は2016年12月10日、法人税を現行の28%から29.5%へ、配当税については6.8%から5%へと引き下げることを決定していた。これはIGVの減税分を補うのが目的で、企業の税負担増を招き、外国投資を促進する観点からは逆行する政策になりかねない。ウマラ前政権時代の2015年1月に、外国直接投資促進や民間投資拡大を主な狙いとして、当時の法人税率30%から28%への引き下げが行われたが、わずか2年で税率は引き上げられた。

当時は、法人税率を2019年までに26%へ引き下げる代わりに、外国企業が本国へ配当を送金する際の配当税については、当時の4.1%から2015~2016年に6.8%、2017~2018年8%、2019年以降は9.3%まで引き上げる予定だった。つまり、ペルーで事業を行う外国企業の利益を本国への送金ではなく、国内で再投資するよう促すとともに、法人税引き下げ相当分の税収を確保する狙いもあった。

立法権限委譲法で公約の実現目指す

クチンスキー大統領は立法権限委譲法に基づき、(1)経済活性化、(2)治安対策、(3)汚職撲滅、(4)上下水道整備、(5)石油公社のインフラ改善の優先5分野について、2016年10月9日付法律第30506号を公布した。同法により90日間の立案期間が政府に与えられ、期限の2017年1月7日までに112件の立法令を公布した。経済活性化の柱では、IGVを18%から17%に引き下げる減税策(立法令第1347号、注)と、同減税分を補うための法人税引き上げ策(立法令第1261号)を公布した。国会で最大の議席数(130議席中72議席)を有するケイコ・フジモリ氏が党首のフエルサ・ポプラル党は、これらの税制改革が経済成長に有効に働くのか、政策効果を問う姿勢を示している。

(注)IGV18%は国税16%と地方振興税2%の合算。立法令第1347号はIGV16%を15%に引き下げることを定めたもので、地方振興税と合わせた税率を17%とするもの。

(藤本雅之)

(ペルー)

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