労働改革法が発効、団体交渉参加者の範囲拡大-中南米の制度改定動向-

(チリ)

サンティアゴ発

2017年05月26日

 4月1日、労働改革法(20940号、2016年9月8日官報掲載)が発効した。ILO条約87号「結社の自由および団体権保護」、98号「団体権および団体交渉権」と整合性を持たせたもので、団体交渉の対象となる事項や参加者の範囲を拡大、非組合員への合意内容の適用に変更が加えられたほか、組合役員への女性参加の仕組みなどが定められた。

一時契約や見習い労働者にも団体交渉権

労働改革法の団体交渉に関する主な変更点は次のとおり。

(1)団体交渉に参加できる者の範囲の変更(第305条の改定)

一時契約の労働者、季節労働者、見習い契約の労働者、採用・解雇に関する権限を有する労働者なども団体交渉に参加できるようになった。ただし、代表権限を有する労働者、経営に関し一般的な権限を有する労働者、中小企業で上位管理権限のある者などは除外された。

(2)団体交渉の対象となる事項(第306条の改定)

これまでは、賃金(労働契約に基づく対価)、物品または現金によるその他の経済的利益、共通の労働条件のみが団体交渉の対象とされていたが、改定により、仕事と家族における責任の両立、親権行使、機会均等、男女平等、不平等な状況の是正、職業訓練、福祉サービス整備、紛争解決メカニズムに関する合意や特別労働条件なども対象とされた。

(3)特別労働条件(374~377条の改定:2007年改定版第38条)

労働者の30%以上が労働組合に加入している場合、週4勤3休制や、育児・介護など家族を養う責任を有する労働者に対する勤務場所・勤務時間帯の調整などに関し団体交渉を行うことができるようになった。

(4)情報提供(315~319条の改定:2007年改定版第315条)

企業の規模(505条に規定の労働者数)に応じ、企業が労働組合に提供すべき情報が定められた(表参照)。

表 労働組合への情報提供義務

また、大企業の労働組合は1年に1回、中企業の労働組合は団体交渉前に、労働者の要求・異議申し立て・相談・提案を受理する役職に就いている者または従業員(154条の6)の給与情報を申請できるようになった。

(5)最低条件(336条、341条の改定:2007年改定版第369条)

団体交渉時には、「団体契約案の提示時に有効だった労働協約と同じ内容」が最低条件として保障されており、以前は、その最低条件から給与の調整(物価などによる調整)のみが除外されていた。改定により、さらに実質的な給与の増加や特別労働条件に関する合意、労働協約署名時にのみ与えられる経済的利益、非組合員への適用なども除外された。そのため、これらに関しては団体交渉のたびに内容を改めることができるようになった。また、企業の経済状況により正当化される場合は、双方の合意により新336条の最低条件を引き下げ、現行の内容を下回る労働協約に署名できるようになった。

非組合員への合意内容の適用でも変更

(6)非組合員への適用(321~322条の改定:2007年改定版第346条)

これまで雇用者の一存で非組合員に対しても団体交渉で合意に至った内容を適用できたが、その際、非組合員には75%の組合費の支払いが義務付けられていた。改定後は、労働組合と雇用者の合意により適用条件(組合費の全額または一部の支払いなど)が書面で定められることとなり、非組合員は適用を受けるか否かを選択できるようになった。

(7)ストライキ権、ストライキ中の必要最低限の業務(345条、359~363条の改定:2007年改定版第381条)

改定により、ストライキ中は内部または外部からの欠員補充や契約社員の雇用が禁止された。これまでは補償一時金支給などの条件を満たせば、ストライキ中に代替労働者の雇用が可能だった。一方、労働組合に対しては、雇用者との合意に基づき、企業の資産・設備の保護や事故防止、公的サービスなどの提供、環境・公衆衛生上の被害予防などのために必要な最低限の業務を行う要員の提供が義務付けられた。労働組合からそれらの要員が提供されなかった場合、雇用者は労働局に通知し、代替労働者の契約などの措置を講じることができる。最低限の業務内容、実施要員の決定に当たっては、雇用者が労働協約失効の180日前までに書面にて提案を行うこととされ、双方が合意に至るまでの期間は30日間とされた。

(8)産業別組合による団体交渉(364条の改定、227条への修正:2007年改定版第334条)

複数の企業の労働者により形成される産業別組合との団体交渉を拒否できるのは零細企業、小企業の雇用者のみとされた。また、労働者数が50人以下の企業において、労働組合、産業別組合が団体交渉を行うには、その企業から最低8人、かつ50%以上の労働者の参加が必要とされた。

(9)女性参加(231条への修正、330条の改定)

新たに女性参加に関する条項が盛り込まれた。労働組合規約において、組合役員に3分の1以上または女性組合員の割合に応じた女性が参加するようなメカニズムを組み込むこととなった。また、女性労働者がいる企業では、交渉委員会には少なくとも1人の女性の参加が義務付けられた。

そのほか、新たに労働組合の結成などを支援するための恒久基金(労働改革法2~3条)および公共政策策定のための政府、雇用者、労働者の代表からなる労働上級協議会(労働改革法4~11条)が設立されることとなった。

(小竹めぐみ)

(チリ)

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