海底油田・ガス田の掘削規制を見直す大統領令に署名-海洋資源開発拡大の実現には課題も-

(米国)

ニューヨーク発

2017年05月19日

 トランプ大統領は4月28日、海底油田・ガス田の掘削に関する規制の見直しを指示する大統領令「米国第一のオフショア・エネルギー戦略」に署名した。メキシコ湾、北極海、大西洋などの一部海域を対象として、石油・天然ガス開発に向けたリース計画を見直すことなどをジンキ内務長官に命じている。ただし、原油価格が伸び悩んでいる状況に加えて、リース計画の見直しに内務省は2年程度を要するとみているなど、実際に企業が海洋資源開発を拡大させるかは不透明だ。

オバマ前政権によるリース計画を見直しへ

今回の大統領令では、米国民の利益のために、世界におけるエネルギーに関する指導的地位を維持するとともに、エネルギーの安全保障などを推進するため、安全と環境責任を確保しつつ、エネルギーの探査および生産を促進する政策を取らなければならない、としている。

具体的には、連邦政府が保有する外縁大陸棚鉱区(注1)での2017~2022年における石油・天然ガス開発に向けたリース計画(2016年11月発表)をはじめ、オバマ前政権下でのこれまでの海洋資源開発規制の見直しを内務長官に指示している。今回の見直しは、メキシコ湾西部・中央部、北極海の一部のチュクチ海・ボーフォート海、アラスカ州南岸のクック湾、大西洋中部・南部を対象としており、太平洋、大西洋北部、メキシコ湾東部は含まれていない。

また、商務長官に対しては、海洋保護区の新たな指定または拡大を控えるとともに、過去10年間に指定または拡大した海洋保護区および海洋国立モニュメント(注2)の指定または拡大について全て見直しを行い、その結果を180日以内に行政管理予算局長らに報告するよう指示している。

このほか、北極海および大西洋の一部海域について、石油・天然ガス開発に向けた新たなリースおよび掘削の対象から無期限に除外した2016年12月のオバマ前政権による退任直前の決定を無効化するとした規制緩和なども盛り込んでいる。

海洋開発には厳しい環境続く

内務省によると、2017年3月1日時点で17億エーカー(約688万平方キロ、1エーカー=約4,047平方メートル)ある外縁大陸棚のうち、石油・天然ガス開発に向けたリースがされている海域は1%に満たず、その97%以上を米国領メキシコ湾が占めている。また、外縁大陸棚全体では900億バレルの石油と327兆立方フィート(約9,260立方キロメートル)の天然ガスが未発見かつ技術的に採掘可能とみられているが、オバマ前政権による2017~2022年のリース計画では、94%の海域で開発が禁止されている。トランプ大統領は「米国のエネルギーへの規制を撤廃し、米国社会に富を流入させる」として、大統領令の意義を強調する。

今回の規制緩和に向けた動きについて、石油業界は歓迎しているものの、実際に企業が海洋採掘を拡大させるかどうかについては不透明との見方もある。海洋開発には探査や掘削などに高い技術が求められ、陸上での開発と比べてコストがかかることが多い。加えて、2016年2月に一時1バレル当たり26ドルにまで下落した原油価格は、50ドル前後の水準まで回復したものの上値が重い状況にあり、海洋開発には厳しい環境が続いているためだ。

また、内務省による5ヵ年リース計画の見直しには時間がかかる。ジンキ内務長官は、パブリックコメント募集や各種調査などが必要なため、見直しには2年程度かかり、それまではオバマ前政権によるリース計画が引き続き有効、とコメントしている。とりわけ大西洋海域における海洋調査については、環境保護団体による訴訟をはじめ、議員らの反対もあり、見直しの実施には乗り越えるべき課題が多い。

(注1)米国では、1953年に制定された外縁大陸棚法に基づき、各州に属さない大陸棚については連邦政府による管理の下、内務省がリース権販売のスケジュールやリースの規模・立地などを含む5ヵ年リース計画を策定している。

(注2)1906年遺跡保存法に基づき指定。

(渕上茂信)

(米国)

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