経済界はビジネス機会狙うが、メディアの懐疑論も根強く-「一帯一路」イニシアチブに対する見方-

(英国、中国)

ロンドン発

2017年05月30日

 中国政府が5月14~15日に北京で開催した「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに、英国政府代表として参加したフィリップ・ハモンド財務相は「一帯一路の西端にある英国は一帯一路イニシアチブの自然なパートナーだ」として、中国の進める巨額のインフラ計画に金融面や設計などで貢献できるとアピールした。その一方で、同イニシアチブのもたらすビジネス機会に対する経済界の期待とは裏腹に、メディアでは中国懐疑論も根強い。

政権交代で英中関係は蜜月とは程遠い状況に

英国は2015年3月に、主要7ヵ国(G7)の中で初めて、中国の主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。2015年9月にはジョージ・オズボーン前財務相が政府高官や企業幹部を率いて中国を訪問し、英国が西側諸国の中で、中国政府の「最高のパートナー国」になることを目指すと発言した。さらに2015年10月には習近平国家主席が英国を公式訪問するなど、英国政府は積極的に中国との関係構築に努めてきた。

しかし、2016年6月のEU離脱の国民投票の結果を受けて、デービッド・キャメロン前首相が辞任を表明、翌7月に現在のテレーザ・メイ政権が発足すると、中国主導で進められてきた英国の南西部ヒンクリーポイントにおける新たな原発計画について、メイ首相は決定を一時、保留した。安全保障や経済性の観点が理由とされるが、中国側は駐英大使が「フィナンシャル・タイムズ」紙に抗議文を寄稿するなど反発し、両国関係に冷や水を浴びせた。2016年9月に同計画は最終承認されたが、英国政府が出資関係の変更に介入できるようにするなど、監視体制が強化された。英国経済界の英中関係強化に対する期待は高く、引き続き要人の交流は継続しているものの、英中関係は前政権時代のような蜜月関係とは程遠い状況だ。

米国のリーダーシップの退潮を中国が穴埋めへ

「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムには、政権のナンバー2に当たるハモンド財務相が派遣されたが、英国は現在、EU離脱交渉や、6月8日の総選挙に向けたキャンペーンの真っただ中であり、フォーラムに関する報道はあまり大きく扱われなかった。

5月14日付の「フィナンシャル・タイムズ」紙は「一帯一路と多くの疑問」と題する記事の中で、世界貿易における米国のリーダーシップの退潮傾向を踏まえ、習国家主席がその穴を埋めつつあると指摘。「一帯一路」イニシアチブは21世紀における中国の新植民地主義との批判に対して、「中所得国のわな」に苦しむ国々や、伸び悩む世界貿易を活性化させるという点で、中国のシルクロード計画はただの開発計画以上の意味を持つ、と評した。

一方で同紙は、「一帯一路」イニシアチブによって、中国経済の悪い側面、すなわち中国経済の不均衡が輸出されることを懸念事項として指摘した。国営企業による独占で資本が非効率に配分され、それが多くの産業で過剰な設備投資を招いてきた。中国は「一帯一路」イニシアチブを通じて、単に資金や余剰生産力を他の国に向け、自国の建設会社に仕事を取らせたいだけかもしれない、とした。そうなれば、計画されるプロジェクトは、その受け入れ国にとって必ずしも必要ないものになる可能性もあり、期待される収益も上げられないかもしれない、融資は返済されずに受け入れ国の信用格付け(クレジット・レーティング)を下げ、中国の金融システムに不良資産を残すかもしれないと、負の側面も指摘した。

ブレグジットで中国はEUを重視との見方も

近年、好調な両国関係を背景に、中国企業は英国をEU市場のゲートウエーと捉えて、進出を加速させてきた。習国家主席も英国のEU残留を望むとの見解を示していたが、結果的に英国民はEU離脱を選択したことにより、両国関係は新たな転機を迎えている。

英王立国際問題研究所(チャタムハウス)は、5月11日に「ブレグジット(英国のEU離脱):EU-中国関係へのインプリケーション」とするレポートを発表した。経済面では、今後の英国とEUの交渉の結果にもよるが、欧州単一市場へのアクセスを失うなどすれば、中国企業の欧州戦略も見直しが迫られるとして、中国企業の対英投資が減少すると分析。政治面では、これまでEU内でリベラルな経済政策を推進してきた英国の脱退は、中国にとってもEUとの経済関係を強化する上で大きな痛手となると指摘した。こうしたことから、ブレグジットにより、英国、EUと中国の経済関係は大きく変化し、中国にとって、今後は英国との関係よりも、EU、特にドイツとの関係がより重要視されるようになるとの見通しを示した。

(佐藤丈治)

(英国、中国)

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