EU理事会、「ブレグジット交渉指令」を採択-欧州委は6月19日の週に交渉入りの意向-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年05月23日

 EU理事会は5月22日、一般問題理事会で英国のEU離脱(ブレグジット)交渉権限に関する指令を採択したと発表した。同時に、ブレグジット交渉の開始を承認し、欧州委員会にEU側の交渉権限を付託する決定を採択した。同日、欧州委のミシェル・バルニエ首席交渉官も声明を発表し、「第1ラウンド交渉会合を6月19日の週に開始したい」との意向を明らかにした。

EU側の対英交渉開始に向けた準備整う

EU(閣僚)理事会は5月22日、一般問題理事会で英国との離脱交渉を開始することを承認し、欧州委にEU側の交渉権限を正式に付託する決定を採択したと発表した。同日のEU一般問題理事会(閣僚理事会)では、「ブレグジット交渉権限に関する指令」も採択した。これに先立ち、4月29日の特別欧州理事会(特別EU首脳会議)では「離脱交渉ガイドライン」が採択され、欧州委も5月3日にブレグジット交渉権限に関する指令案をEU理事会に対して勧告していた。これにより、EUとしての対英交渉開始に向けた法的手続きが整ったことになる。

今回の発表では、EUとしては「段階的交渉アプローチ」を取ることがあらためて強調された。(1)英国在住のEU市民の権利保護、(2)英国の対EU債務問題の処理、(3)アイルランド国境問題の処理、という優先事項をまず解決した上で、英国側が求める移行措置や通商交渉など、そのほかの事項に取り組むというEUの基本姿勢だ。今回、採択されたブレグジット交渉権限に関する指令(状況に応じて修正・追加の可能性あり)も、あくまで優先課題を解決するための第1段階の交渉についての欧州委の指針と総括されている。第2段階以降の交渉については、ほぼ白紙状態ということになる。第1段階の交渉を終了し、第2段階に進むためには、EU側が「十分な進捗があった」と認めることが必要で、交渉の主導権がEU側にあることを明示した。

第1段階交渉の最大の「壁」は英国の債務問題

英国にとって最大の問題は、財政問題(債務問題)の解決だろう。そのほかの2つの課題は相互の利益にかなう双務的側面があるが、財政問題の解決については、英国がEUに対して果たすべき予算負担であり、片務的課題だ。EUはこの債務総額の算定のほか、支払いスケジュールまでを第1段階交渉の中で合意することを英国に求めている。また、EUはこの債務には現在、英国に本拠を置いている欧州銀行監督局(EBA)や欧州医薬品庁(EMA)などEU専門機関の移転に関わるコストも含まれると明示した。

EU側のレトリックでは、英国はこのEU加盟国としての債務を履行するまでは第1段階交渉を終えることはできず、移行措置や通商交渉などについては議論することさえできない。

6月22~23日の欧州理事会での報告目指す

欧州委は5月22日付で、今回のEU理事会の決定を歓迎する意向を発表した。欧州委で対英交渉の総責任者を務めるミシェル・バルニエ首席交渉官も同日、声明を発表。「英国の総選挙(6月8日)後、直ちにEU側の交渉方針を通知できると期待している」と述べた。また、「第1ラウンド交渉を、6月19日の週には開始したい」との意向も示し、「6月22~23日の欧州理事会の場で最初の報告を行いたい」とも語っている。このほか、「2017年末か、2018年初めまでには、英国とEUの将来関係についての協議を含む第2段階の交渉を開始したい」としながら、「そのためには、十分な進捗が必要だ」と指摘し、英国の債務履行に妥協しない姿勢を鮮明にした。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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