ブラジル進出日本企業の隣国活用メリット探る-パラグアイセミナーがサンパウロで開催-

(パラグアイ)

サンパウロ発

2017年05月01日

 パラグアイのグスタボ・レイテ商工相と上田善久駐パラグアイ大使は4月11日、在ブラジル進出日系企業向けにパラグアイにおけるビジネスの可能性についてサンパウロ市内で講演した。ブラジルコスト対策や周辺諸国へのビジネス機会を模索している30社・機関の約60人が参加した。

メルコスール自動車産業向け部品製造の一大拠点に

今回のセミナーは、「コスト競争力強化に向けたパラグアイの活用」をテーマに1年ぶりに開催したもの。ジェトロは、2014年にパラグアイ商工相による進出相談会、2015年には商工省、在パラグアイ日本大使館との3者で商工相と進出日系企業による現地セミナーを開催した。また、2016年4月にはレイテ商工相を講師に招き、パラグアイ商工省、ブラジル日本商工会議所との3者共催でセミナーを開催した。今回のセミナー開催に当たっては、在パラグアイ日本大使館も加わった(詳細は会議所ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照)。

パラグアイには、a.南米南部共同市場(メルコスール)など域内向け製造、b.国内建設需要や海外への穀物輸出などソフト・ハードインフラ需要を狙った建設・コンサルタントや技術・資材供給、c.時差を利用したデータサービス提供、などを行う日本企業計16社が進出している。

域内向け製造拠点としては2011~2015年にフジクラ、矢崎総業、住友電装が相次いで工場を設置し、同国はメルコスール自動車産業向けのワイヤーハーネス生産の一大拠点となった。2016年には自動車パワートレインに不可欠なガスケット(シール材)の製造拠点設置に向けて内山工業が南米現地法人(ウチヤマ・スダメリカ)を設立した。河川輸送分野では2012年から常石グループが造船所を稼働させ、河川輸送用バージの建造と船舶修理事業に着手している。

他方、日本企業以外の動向をみると、中国の自動車メーカーである江淮汽車(JAC)がパラグアイ国内市場向けに2016年4月からコンパクトカー「J3」、同年10月には小型スポーツ用多目的車(SUV)「S3」のアセンブリー(組み立て)をそれぞれ開始した。ちなみに、2017年3月に首都アスンシオンで開催された米州開発銀行(IDB)総会では、同社の小型SUV60台が要人送迎用車両として使われた。

進出企業に競争力強化の「セットメニュー」提供

レイテ商工相は、「新しいパラグアイ-ビジネスチャンスから競争力へ」と題した講演を行い、まず「われわれは日本企業の進出を支える快適な環境を提供できる」と強調した。その理由として、パラグアイへの日本人の移住開始後81年が経過し、日本人移民がパラグアイ社会に深く浸透していることを挙げ、「日本人学校や和食レストランがそろっており、日本人にとって生活環境が良い」と述べた。

次に、「パラグアイに投資して利益が出るか」と参加者に問い掛け、企業が重視する収益性に関するパラグアイの特性に言及した。パラグアイで利益を上げられる理由として、日本企業の進出が15年前から始まり、各企業がパラグアイと共に成長を続けていることを挙げ、「われわれは進出日本企業に収益性を提供するための仕組みを有している」と説明して、「本当かどうかは進出日本企業に確認してほしい」と自信をのぞかせた。

第3に、「企業の収益性が確保できても、長期に継続できないと意味がない」と強調した。企業経営を保護する法律の存在と中南米随一の通貨・為替安定国であることを挙げ、パラグアイは製造業投資に必要な長期計画の立案が可能な国だとアピールした。

第4に、パラグアイは域内トップクラスの競争力があると断言できるとし、進出日本企業に対して(マクドナルドなどファストフード店のように)セットメニューを提供できる、と語った。パラグアイが提供できるセットメニューの中身とは、a.水力発電による安価でクリーンな電力、b.若く豊富で真面目な労働力、c.南米域内でも低い課税率(法人税率10%、個人所得税率10%、付加価値税率10%)、d.各種(投資関連)制度、としている。d.の各種制度については、マキラ保税制度(輸出目的の資材・原材料・機械設備の輸入関税などの免除)や投資法(1990年法令第60号)を紹介した。投資法は、政府承認投資プロジェクトで使用する資本財(機械・機器)の輸入税と付加価値税の免除、500万ドル超の投資に適用される海外送金・利子課税の免除、さらに10年間で500万ドル超の投資に適用される配当課税免除、などを含むものだ。

南米大陸のビジネスの中心を目指す

レイテ商工相は国家の成長に必要な戦略に関し、以下の4点を方針として挙げた。

(1)世界市場に向けて食品など付加価値の高い生産拠点を目指す。

(2)ブラジルなどへ製品を供給するために域内工場地帯の確立を目指す。

(3)中南米諸国が輸入している(中国)製品などの(代替)製造・供給(拠点)を目指す。

(4)上記オペレーションに不可欠な国際河川輸送や大陸横断輸送のルートなど輸送ロジスティクスやその他サービスなどのインフラ整備を促し、名実ともに南米地域の中心地を目指す。

上記(1)(2)(4)への取り組みに関し、a.既に日本人移民や日本企業が貢献していること、b.ドイツの10倍に相当する肥沃(ひよく)な国土の10%しか活用されていないこと、c.人口の70%が35才以下と南米で最も平均年齢が低い国であり、技術ノウハウのある日本企業に労働力を提供できること、などの点を挙げ、パラグアイの成長戦略が実現可能なものであるとの認識を示した。

レイテ商工相は最後に、「われわれは日本企業に本当のことを言ってほしい。本音ベースで一緒に考え、一緒にもうけられるウィンウィンの関係を築きたい」と訴え、講演を締めくくった。

上田大使は日系パラグアイ人の存在感の大きさを強調

続いて上田大使が、「山椒(さんしょう)は小粒でピリリと辛い~パラグアイの魅力~」と題し、異なる視点からパラグアイへの進出メリットを説明した。

第1のメリットは、パラグアイ社会における日系社会の存在感だ。日本人移住者は総人口685万人の0.15%の1万人足らずにもかかわらず、パラグアイ社会での存在感は際立っている点を強調した。日本人移住者は農業分野のパイオニアとして同国の経済発展に貢献したほか、商業分野でも日本人移住者とその子孫が経営する有力企業が多く、存在感を示している。また、政治分野でも日系人の外務次官や駐日大使らを輩出している。同国の日系人の日本語レベルは高いとのことだ。さらに、日系社会による日本への信頼感醸成での貢献、長年の日本との経済・技術協力を背景とする有形無形の資産〔ニホンガッコウ学院(注)など〕の存在にも言及した。

第2のメリットは、南米域内でパラグアイの存在感が高まっている点だ。その理由として、a.過去に左傾化した国々が多い南米諸国にあって一貫して反ポピュリズム、自由主義経済路線を堅持し、政治的な揺れが大きい南米地域の中で新たな視座を提供していること、b.良好な投資環境とマクロ経済の安定により、低成長の中南米諸国の間で目立つ成長期待国であること、c.積極的な投資誘致政策により、域内企業や欧米企業が、ブラジルコストの存在はパラグアイにとって(投資先としてのメリットを示す)チャンスだとし、域内生産拠点として注目していること、を挙げた。

上田大使は、大使館ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのコンテンツを紹介し、自らが執筆しているコラム「パラグアイ便り」や「パラグアイ経済早わかり」などの情報を満載しており、ぜひ活用してほしいと述べた。

ジェトロなどが6月にミッションを派遣へ

講演後に参加者からは、パラグアイでの生産品の輸送コストを左右する輸送インフラの整備状況やパラグアイでのJACの生産目的(中国製品輸入のパラグアイ製造供給代替なのか、中南米域内製造拠点なのか)などについて質問が及んだ。

輸送インフラ整備についてレイテ商工相は、ブラジルやアルゼンチンとの国境に近い都市シウダード・デル・エステと首都を結ぶ道路の複線化など各種プロジェクトのインフラ整備が着実に進んでいると自信をのぞかせた。また、JACはパラグアイ企業とのパートナーシップに基づき、同国の自動車規定を活用して完成車のノックダウンを行いながら毎年現地調達率を引き上げる取り組みを行っていること、既にリアガラスやバッテリーなどは国内調達していることを紹介した。なお、JACは3月末にカルテス大統領と面談したが、パラグアイにメガ工場を建設する計画はなく、パラグアイの投資環境を体感している段階だと説明したとのことだ。

閉会あいさつをしたブラジル日本商工会議所の平田藤義事務局長は、パラグアイにおける企業の投資回収率(ROI)が22%であること、会社設立手続きおよび環境ライセンス取得と外貨口座開設が短期間で完了できることに驚いているとコメントした。さらに、ジェトロが企画しているパラグアイミッションに参加したいと語るとともに、ぜひ一度はパラグアイを訪れてほしいと呼び掛けた。

セミナー後のラウンドテーブルでは、9社12人が参加してパラグアイでのサービス・フランチャイズ展開や輸送関連資材分野の投資・供給などについて、英語やスペイン語、ポルトガル語を交えたレイテ商工相との活発な質疑応答が行われた。セミナー参加者アンケートによると、回答者30社48人のうち、パラグアイに何らかの拠点設置を検討している企業は4社4人、拠点はないが情報収集を行っている企業は11社13人だった。ジェトロ・サンパウロ事務所ではアンケート結果を踏まえ、パラグアイ商工省、ブラジル日本商工会議所、在パラグアイ日本大使館などと連携して、6月5日の週に同国へのビジネス展開の可能性を探るミッション派遣を予定している。

(注)パラグアイの中流家庭の子女が学ぶ私立学校。外務省のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参考。

(大久保敦)

(パラグアイ)

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