著作権保護期間の延長や投資事前通知基準額の引き上げを評価-2017年外国貿易障壁報告書(カナダ編)-

(米国、カナダ)

米州課

2017年04月27日

 米通商代表部(USTR)が3月31日に発表した2017年版外国貿易障壁報告書(NTE)では、カナダがレコードの著作権保護期間を70年に延長したことや、カナダ投資法に基づく投資の事前通知基準額を前倒しで引き上げたことを評価した。一方、障壁としては、輸入貨物の非課税基準額が低く、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州における同州産以外のワイン販売方法が差別的で、加工業者に販売される生乳の価格支援制度が拡大されたことなどが報告された。

新たな障壁に輸入貨物の非課税基準額の低さ

2016年の米国の財の対カナダ貿易赤字は、前年比27.7%減の112億ドルと大幅に減少した。カナダは米国最大の財の輸出相手国で、2016年の輸出額は2,668億ドルと4.9%減少し、カナダからの輸入額は2,781億ドルと6.1%減少した。2017年版NTEにおいて、カナダに関する記述は前年と同様の8ページで、障壁の分野としては、貿易の技術的障壁および衛生・植物検疫、輸入政策、国内支援措置、サービス障壁、投資障壁、デジタル貿易が含まれた(表参照)。

カナダの貿易障壁
分野 項目 障壁内容
貿易の技術的障壁
および衛生・植物検疫
貿易の技術的障壁 種子法による米国産種子の輸出制限、チーズ成分基準による米国産乾燥乳タンパク質濃縮物の需要減少
輸入政策 農業供給管理制度 酪農品、畜産品の関税割当、特別乳分類許可制度(SMCPP)によるカナダ産生乳の割引制度の対象拡大
米国産穀物輸出制限 穀物法と種子法による外国産穀物に対する品質区分制約
個人免税範囲 国外滞在期間24時間以内の場合は免税対象外
非課税基準額* 輸入貨物の非課税基準額は先進国最低の20カナダ・ドル
ワイン、ビール、
蒸留酒
米国産ワイン・蒸留酒の輸入の際の州税、州酒類管理委員会による販売管理、ブリティッシュ・コロンビア州やオンタリオ州でのワイン販売方法
国内支援措置 航空産業支援 ボンバルディアに対する融資、助成金
政府調達 ハイドロ・ケベック電力公社による原産地規則
知的財産権保護 医薬品に対する裁判所の特許有用性基準、地理的表示基準に対する法手続きおよび透明性、カナダ経由米国向け貨物に対する模倣品・海賊版検査を可能にする法律の未改正
サービス障壁 電気通信 電気通信事業者に対する出資規制、取締役の80%のカナダ国籍義務
放送におけるカナダコンテンツ義務 カナダ・ラジオ・テレビ電気通信委員会による番組編成における一定比率のカナダコンテンツの義務付け、スーパーボウル中継におけるテレビ広告置換の禁止
投資障壁 カナダ投資法による雇用・研究開発義務、国営企業によるオイルサンド事業の買収は特別な例外のみ許可
デジタル貿易 データの現地保管義務 連邦政府のICTサービス・電子メールシステムデータの現地保管義務

(注)*は新規追加項目。
(出所)2017年版外国貿易障壁報告書を基に作成

まず、前年版と比べて貿易障壁が低減したと評価した内容は、著作権保護期間の延長だ。カナダが2015年6月の著作権法の改正により、レコードについて、実演家とレコード製作者の権利の保護期間を最初の発行後50年から70年に延長している。

また、投資障壁の分野では、カナダ投資法に基づく投資の事前通知基準額が、法改正により2019年に10億カナダ・ドル(約820億円、Cドル、1Cドル=約82円)に引き上げられることになっていたが、カナダ政府が2年前倒して2017年から10億Cドルに引き上げたことを評価している。

一方、障壁として2017年版で新たに盛り込まれた内容は、輸入貨物の非課税基準額が低いことだ。米国は2016年3月に輸入貨物の非課税基準額を200ドルから800ドルに引き上げたが、カナダの非課税基準額は20Cドルのままで、船会社やオンライン小売業者は不必要な貿易障壁が生じている、と主張している。

BC州のワイン販売方法についてWTO協議を要請

ワインの販売規制について、BC州やオンタリオ州では一定の要件を満たせば一般の食料品店でも販売可能となったが(2015年6月11日記事参照)、BC州では同州産以外のワインの陳列場所やレジを壁や仕切りで食料品と明確に区別する必要があるのは差別的として、2017年1月にWTO協定に基づき、米国側が協議を要請した。

また、カナダで生産される生乳は、最終用途によって1~5の階級に分類されている。カナダ産乳製品の競争力を強化するために、加工用や輸出用に使用されるクラス5の生乳は、特別乳分類許可制度(SMCPP)に基づき、通常より割引された販売価格が設定されている。カナダ生乳供給管理委員会(CMSMC)は2016年5月、クラス4の一部の生乳もSMCPPの対象に加えること決定するとともに、カナダの酪農業者と加工業者は2016年7月、新たにクラス7の分類を設けることに合意した。2017年2月からクラス7もSMCPPの対象となり、より広範なカナダ産の乳製品原料が低価格で購入できるようになったことで、米国産原料の売り上げが減少することを米国側は懸念しており、カナダとの2国間協議やWTO農業委員会で問題提起している。

(中溝丘)

(米国、カナダ)

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