日本産農林水産物・食品の輸出拡大目指す-在メキシコ大使館で促進協議会の初会合-

(メキシコ、日本)

メキシコ発

2017年04月12日

 対メキシコ農林水産物・食品輸出促進協議会の初会合が3月29日に、在メキシコ日本大使館で開催された。2016年5月に官邸主導で取りまとめられた「農林水産業の輸出力強化戦略」に基づき、同大使館の主催、ジェトロ、国際協力機構(JICA)の協力で開かれ、約25人の在メキシコ食品事業関係者が参加した。

メキシコ向けは農林水産物・食品輸出額の0.2%

冒頭、在メキシコ日本大使館の佐々木秀明農務官は、日本の農林水産物・食品の輸出は2016年の速報値で7,503億円となるなど堅調な伸びをみせているが、そのほとんどがアジア向け(73.9%)で、メキシコ向けは0.2%(2015年)にとどまっていると説明。その上で、メキシコの食品関連事業者15社に行ったアンケートでは、輸入拡大が期待できる産品としては魚介類、調味料、日本酒、日本茶という回答が多く、またメキシコの輸入における課題については、通関や検疫制度、物流、マーケットなどの情報や関連サービスプロバイダーの不足などが多かったと指摘した。そして「メキシコにおける日本産食品の輸入拡大のためには、輸入に係る各種情報の整備やワンストップ窓口の設置、また通関、検査手続きの簡素化に向けた当局への働き掛けなどを検討している。協議会参加者間のネットワークも活用していきたい」と締めくくった。

ジェトロは、提供する日本産食品輸入拡大の支援メニューを紹介した。ウェブサイトを通じた情報発信や相談窓口に加え、直近に発行されたジェトロの調査レポート「日本食品消費動向調査 メキシコ」、3月7~9日にメキシコ・グアダラハラで開催された中南米最大級の総合食品見本市「Expo ANTAD 2017」でジャパンパビリオンを出展したことなどを紹介した。またJICAはODAを活用した中小企業の海外展開支援や食品産業分野における官民連携ボランティアの事例などを説明した。

水産物輸入の手続き簡素化を要望

質疑応答では、トランプ米政権の誕生や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉がメキシコの食料輸入に与える影響や、茶の入れ方・飲み方など日本産食品の普及・啓発活動についての質問もあった。また拡大が見込まれる魚介類の輸入に関して、輸入に必要な衛生証明に対応する日本政府発行の証明書がないため、自己証明方式(注)を採用するほかなく、多大なコストがかかるため直接輸入できない状況にあるとして、改善を要望する声が出た。メキシコは東西が海に面しており、魚介類は調達しやすいが、日本産にこだわる富裕層のニーズや日本でしか獲れない魚の調達などについて、日本食レストランや日本産食材を扱う卸売業者などから証明書問題を含め輸入手続き簡素化の要望が根強い。協議会の活動の一環として、大使館とジェトロが連携して当局への働き掛けなどを行っていくことを確認した。

輸入の4割超は米国など第三国経由と推計

国立統計地理情報院(INEGI)貿易統計によると、農水産物・食品の輸入額(2016年)は246億4,000万ドルで輸入総額の6.4%に相当する。輸入相手国では米国が1位で全体の7割を占めている(表1参照)。日本は1,908万ドルで3年前の2013年と比べると52.6%増と増えているものの、構成比では0.1%にとどまり43位の輸入相手国となっている。内訳では、各種調製食料品、採油用種子(主にカボチャの種)、魚介類が多く、これら3品目で52.2%を占めている(表2参照)。

表1 メキシコの農水産物・食品の国別輸入額の推移(単位:100万ドル、伸び率は%)
順位 国名 2013年 2014年 2015年 2016年 伸び率
金額 金額 金額 金額 構成比 13/16
1 米国 18,753.2 19,577.2 17,701.6 17,455.0 70.8 △ 6.9
2 カナダ 1,916.1 1,897.6 1,753.7 1,644.3 6.7 △ 14.2
3 チリ 616.0 625.8 628.0 586.0 2.4 △ 4.9
4 中国 457.7 462.7 455.9 482.9 2.0 5.5
5 スペイン 327.1 327.1 370.0 360.8 1.5 10.3
6 ブラジル 252.1 197.9 252.5 302.5 1.2 20.0
7 フランス 268.4 173.5 201.6 263.9 1.1 △ 1.7
8 グアテマラ 271.3 259.4 225.3 263.7 1.1 △ 2.8
9 ニュージーランド 170.7 185.2 195.0 244.5 1.0 43.2
10 英国 211.8 213.9 207.1 203.2 0.8 △ 4.1
43 日本 12.5 12.5 12.7 19.1 0.1 52.6
全世界 26,053.4 26,815.0 24,584.0 24,640.0 100.0 △ 5.4

(注)HS1~24類の合計。輸入相手国の順位は2015年のもの。
(出所)国立統計地理情報院(INEGI)貿易統計

表2 メキシコの主要分野別対日農水産・食品輸入(単位:1,000ドル)
HS 分野 2014年 2015年 2016年
金額 金額 金額 構成比
21 各種調整食料品 3,174.4 3,359.2 3,174.8 26.4
12 採油用種子、飼料用植物 1,672.0 1,933.2 2,281.3 15.2
03 魚介類 1,766.8 1,536.3 4,504.4 12.1
16 食肉・魚介類加工品 1,580.6 1,240.2 1,533.7 9.7
22 飲料・アルコール 892.5 1,052.5 1,124.0 8.3
農水産食料品合計 12,503.7 12,748.4 19,074.7 100.0

(出所)メキシコ経済省貿易統計

一方、日本の輸出統計をみると、対メキシコ農水産物・食品輸出額(2016年)は1,079万ドルで、メキシコの対日輸入統計(1,908万ドル)の約6割弱となっている。これは日本産食品の多くはまず米国に輸出され、その後、在米商社などがメキシコへ再輸出されていることが関係している。仕向け地主義の輸出統計と、原産地主義を採用する輸入統計を見比べると、メキシコが輸入した日本産食品のうち金額ベースで57%は日本からの直接輸入、残りの43%は米国を中心とした第三国を経由した輸入と推計される。

(注)メキシコでの冷蔵・冷凍水産品の輸入においては、a.衛生認定書(原産国の衛生当局が交付する有効期間が1年の書類で、その中に製品が衛生規定を順守していることが記載される。日本では該当する書類なし)、b.衛生証明書(輸入する製品または原料の衛生上の手続きおよび品質を管理する責任を負う原産国の衛生当局が交付した書類で、その中には製品または原料が人間による使用・消費に適したものであることが明記され、また、その物理化学的構成が記載されている。日本では特定国への輸出に際し、証明書が発行されている)、c.自由販売証明書(公衆衛生に関して衛生当局、あるいは製品または原料が法規定を順守しており、いかなる規制も受けずに原産国もしくは出荷国において自由に使用あるいは消費されていることを保証する、衛生当局とは別の機関が発行する書類。なお、この証明書と併せ、ロットごとの物理化学的分析証明書および微生物分析証明書が必要となる)のいずれかが必要となる。日本では、a.やb.の書類がメキシコ向けには発行されないため、c.の厚生労働省が発行する自由販売証明書に自社で実施した理化学的分析および微生物分析の証明書を付けて輸出するしかない。

(西尾瑛里子)

(メキシコ、日本)

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