中国を為替操作国には認定せず-トランプ政権発足後初の為替政策報告書-

(米国)

ニューヨーク発

2017年04月26日

 財務省は4月14日、トランプ政権発足後初の為替政策報告書を発表した。トランプ大統領は就任初日から取り組むとしていた「100日計画」の中で、中国を為替操作国に認定するとしていたが、今回は中国を含めて認定された国はなかった。一方、前回報告書(2016年10月)と同様に、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6ヵ国・地域が「監視リスト」に挙げられた。

12の主要貿易相手国・地域を為替操作国と認定せず

財務省は4月14日、トランプ政権発足後初となる「米国の主要貿易相手の為替政策(Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States)」報告書(為替政策報告書)を発表した。同報告書は、「1988年包括通商競争力法」「2015年貿易円滑化・貿易執行法」の規定に基づき、米国の主要貿易相手国が対ドル為替レート操作によって国際収支の調整過程を阻害し、不当な貿易利益を得ていないか、などについて調査・検討を行うものだ。財務省が半期(4、10月)ごとに報告書を作成し、議会に提出する。

為替操作国の認定を行うに当たっては、(1)大幅な対米貿易黒字(対米貿易黒字額が年間200億ドル以上)、(2)実質的な経常収支黒字(経常収支黒字額がGDP比3%以上)、(3)持続的で一方的な為替介入(過去12ヵ月間の介入総額がGDP比2%以上)の3つの基準が検討される。3つの基準を全て満たし、為替操作を行っているとの認定が行われた場合、財務省はIMFや特定の国・地域との直接交渉の場で、対米ドル為替政策の是正について協議を行うこととなる。

これらの基準に基づき、12の主要貿易相手国・地域の評価を行った結果、3つの基準を全て満たした国はなかったと報告された。トランプ大統領は就任初日から取り組むとしていた「100日計画」の中で、中国を為替操作国に認定するとしていたが、今回は中国を含めて認定されなかった。

中国や日本など6ヵ国・地域が引き続き監視リストに

このほか同報告書では、2016年4月以降、前述の為替操作国認定に関わる3つの基準のうち2つを満たした国・地域を、「監視リスト」として公表している。監視リストに挙げられた国・地域は、財務省が経済動向や為替政策を評価するとともに、米国の労働者および企業の負担となるような不公正な通貨措置がないかについて、積極的かつ注意深く監視した上で対処していくとしている。

今回、トランプ政権はこの監視リストに追加・保持する国の選定基準を新たに追加し、対米貿易赤字の中で巨大かつ不均衡と見なすほどの割合を占める主要貿易相手国・地域については、3つの基準のうち2つを満たしていなくても監視対象とすることとした。

調査の結果、前回の報告書(2016年10月)と同様に、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6つの国・地域が監視リストの対象とされた(表参照)。

為替政策報告書における主要貿易相手国・地域の評価(1)は対米貿易黒字額が年間200億ドル以上
(2)は経常収支黒字額がGDP比3%以上
(3)は過去12ヵ月間の介入総額がGDP比2%以上だった場合
は×、それ以外は-。また、太字で*付の国は「監視リスト」対象の国・地域。
国・地域名 (1)
対米貿易黒字
(2)
経常黒字
(3)
為替介入
中国* ×
日本* × ×
ドイツ* × ×
メキシコ ×
イタリア ×
韓国* × ×
インド ×
フランス
スイス* × ×
台湾* ×
カナダ
英国
(参考)ユーロ圏 × ×

(出所)財務省

日本、韓国、ドイツについては(1)と(2)、スイスについては(2)と(3)と、3つの基準のうち2つをそれぞれ満たしていることから、前回に引き続き、監視対象とされた。日本については、貿易不均衡の原因となっている国内需要の伸びの弱さが続いており、輸出主導の成長への回帰を避けながら、内需回復と低インフレに対処するため、あらゆる政策手段を講じる必要があることが指摘された。また、過去5年以上為替介入は行っていないが、自由取引が行われる巨大な為替市場において、介入は適切な事前協議が行われた上で、極めて例外的な場合に限って行われるべきだ、とした。

台湾については、今回(2)のみを満たしていたが、前回報告書において(2)と(3)の2つを満たしていたことから、引き続きリストの対象となった。監視リストに一度挙げられた国は、少なくとも向こう2回分(1年分)の報告書において対象国として取り上げられ、3つの基準にみられる改善が一時的なものでなく、永続的なものになっているかどうかについて評価される。

中国については前回と同様に(1)のみを満たしていたが、対米貿易赤字において巨大かつ不均衡な割合を占めると米国が判断したことから、引き続き監視対象とされた。報告書では、中国が人民元の緩やかな上昇しか許容しなかった結果、人民元の当初の過小評価が是正されるまでに長期間を要することになったと指摘した。また、この間の中国の為替政策に起因する世界的な貿易システムのひずみが、米国の労働者および企業に甚大かつ長期的な苦難をもたらしたとした。さらに、中国は輸入品やサービス市場へのアクセスを制限する幅広い政策を追求し続け、海外投資家に悪影響を及ぼす制限された投資制度を維持していると指摘した。

(権田直)

(米国)

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