気候変動のリスクを認識、対策に前向きな企業も-トランプ政権の規制緩和政策と米国石油業界(2)-

(米国)

シカゴ発

2017年04月17日

 トランプ政権のエネルギー開発分野の規制緩和策を米国石油業界はおおむね歓迎しているものの、石油メジャーを中心に、気候変動リスクを認識し、対策に前向きな企業もある。連載の後編。

石油業界は規制緩和を歓迎

米国石油協会(API)には、政府が税制や規制によって勝者と敗者を決めるべきではなく、市場が勝者と敗者を決めるべきとの考えが根底にあり、トランプ政権の規制緩和策を支持している。

ただ、米国燃料石油化学製造者協会(AFPM)のトンプソン会長は3月の年次総会で、「規制改革により、われわれの責任が軽減されると考えてはならない」と述べている。同じ年次総会ではテソロ石油のゴフ最高経営責任者(CEO)も「賢明、公平で、透明性のある合理的な規制が実行されるなら、革新への投資が抑制されることはなく、規制を敵ではなくパートナーと見なすことができるだろう。そういう意味においては、連邦政府の規制は本質的に悪いものではない」とコメントしている。このように、規制緩和は歓迎するものの、慎重な対応を求める意見もある。

「CERAウイーク」は、エネルギー業界の幹部や産油国、石油消費国の政府関係者などが一堂に会する、エネルギー関係では世界最大規模の会合だ(2017年3月13日記事参照)。2017年は3月6日から10日にかけてテキサス州ヒューストンで開催され、石油メジャーの幹部から気候変動リスクを認識した意見があった。

エクソンモービルのダーレン・ウッドCEOは「気候変動リスクを認識した上で、経済成長(石油・天然ガス開発)とクリーンな環境(気候変動を含む)の両立にチャレンジする。しかし、補助金、規制による義務化といった政策は発展を阻害するため支持しない」と発言している。ロイヤル・ダッチ・シェルのベン・バン・ベアーデンCEOも気候変動対策には積極的で、「炭素税などの政府の政策が、石炭や石油などの二酸化炭素(CO2)を排出する資源をフェードアウトさせるためには重要だ」と発言している。シェブロンのワトソンCEOは「トランプ政権によりプロビジネスの環境になって歓迎している。(気候変動リスクを認識しているが)米国の温室効果ガス(GHG)排出量は減少しているという事実もある。環境保護庁(EPA)には規制に対してコスト効果の十分な分析を求める」と発言している。

一方、米国の独立系石油会社からは気候変動政策に関する意見は多くはなかったものの、コノコフィリップスやテソロ石油などは別途、気候変動リスクを認識していることを公表している。APIも気候変動は重要な問題だとしており、トランプ政権になったとはいえ、石油業界はおおむねこれまでどおり気候変動リスクを認識しているとみられる。

企業に気候変動情報の開示を求める

3月にシカゴで開催された気候変動政策を推進していく会議(Climate Leadership Conference)では、トランプ政権への懸念とともに、これからは政府よりも企業が積極的に気候変動対策を進めていくべきとの発言が多くあった。企業が気候変動対策を推進していく上でのガイドラインとして、スタンダード&プアーズ(S&P)グローバルのカルバーリョ氏は、国際機関の金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2016年12月に発表した、気候変動関連の財務情報開示に関する報告書案が重要になるだろうと発言している。この報告書案では、気候変動リスクとして企業が投資家に対して自主的に開示すべき情報が示されている。

ただし、この最終報告書は7月にドイツで開催されるG20(首脳会議)で発表される予定で、トランプ政権がどう対応するか不透明だ。また、米国には米国証券取引委員会(SEC)による「気候変動関連の開示に関する委員会のガイダンス」もある。これは、企業が法律・規制・国際協定による影響、規制・ビジネストレンドによる間接的影響、気候変動による物的影響について投資家に開示するためのガイダンスだ。

1月にエクソンモービルは、気候変動分野の科学者であるアベリー氏を取締役に任命している。この背景には、2016年の株主総会で、株主が取締役候補者を提案できる権利(プロキシ・アクセス)が可決されたことがあると考えられる(2016年12月13日記事参照)。このように、米国においては株主の権利の高まりも企業の気候変動対策を推進させる一因となりつつあるようだ。

CERAウイークで、カナダのトルドー首相は「いつの日か、(再生可能エネルギーにより)伝統的なエネルギー源が必要とされなくなる日が来るだろう。しかし、再生可能エネルギーに移行するまでは化石燃料は必要であり、オイルサンド開発はCO2削減政策と矛盾しない」と語っている。トランプ政権による規制緩和や気候変動政策の見直しが進む中、経済成長と環境問題に対してどう折り合いをつけていくか、政府、業界、企業のそれぞれが問われているのかもしれない。

(ピン・チー、長尾正基)

(米国)

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