国内鉄鋼製品の使用義務に賛否両論-商務省、パイプライン建設に係る情報提供締め切る-

(米国)

ニューヨーク発

2017年04月28日

 商務省は4月7日、パイプライン建設における米国産鉄鋼製品の使用促進計画案の策定に向けて実施していた情報募集を締め切った。鉄鋼企業、エネルギー業界、外国政府など、さまざまな利害関係者が情報提供や意見表明を行い、「国内鉄鋼製品」の使用義務導入には賛否両論があった。同省はこうした意見を踏まえ、計画案を大統領に提出する。

「国内鉄鋼製品」の基準で意見割れる

商務省は「国内鉄鋼製品を使用したパイプライン建設」に関する情報募集を4月7日に締め切った。トランプ大統領は1月24日付の覚書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、商務省に対して、国内パイプライン建設における米国産鉄鋼製品の使用を促進する「米国パイプライン建設計画案」を7月23日までに提出するよう求め、商務省は同計画案の策定に向けて、3月16日から関係者からの情報提供を受け付けていた(2017年3月28日記事参照)。

連邦政府の意見募集サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、4月19日時点(注1)で鉄鋼企業やエネルギー関連団体、外国政府機関などから91件の情報が寄せられている。

米大手鉄鋼のニューコアとUSスチールは、ダンピングや補助金を受けた不公正な輸入品の流入により、国内生産は縮小を余儀なくされているとし、パイプラインを含む国内インフラプロジェクトにおける国内鉄鋼製品の優遇を支持した。

両社はまた、大統領覚書で示された「国内鉄鋼製品」の定義を緩めないよう強く求めている。覚書は、「国内鉄鋼製品」と見なされるためには「融解から塗装まで全ての工程が米国内で行われていること」を要件としている。米国鉄鋼製造業者協会(SMA)や全米鉄鋼労働組合(USW、注2)も、パイプライン建設の恩恵を米国が享受するためには、全ての製造工程が米国内で行われる必要があると強調している。

他方、スラブなどの原料を輸入している製鉄企業は、「国内鉄鋼製品」の基準は厳しすぎると批判している。ペンシルベニア州とインディアナ州に製鉄工場を持つロシア大手ノボリペツク製鉄所(NLMK)は、パイプラインなど民間企業が行うインフラプロジェクトにこの基準が適用されれば、少なくもと300人の雇用を削らなければならないと述べた。

なお、世界最大手の多国籍企業アルセロール・ミタルは、国内鉄鋼製品の使用促進を支持した。「国内鉄鋼製品」の基準の妥当性については触れていないが、「(当社は)鉄鉱石、石炭、コークス、鉄鋼くず、石灰岩など、製鉄の主要原料に関する幅広いサプライチェーンを米国内に有している」と述べている。

エネルギー業界は使用義務に反対

米国ガス協会(AGA)や米国石油協会(API)など、エネルギー企業やパイプライン運営企業が加盟する業界団体は、国内鉄鋼製品の使用義務導入に反対した(注3)。現状では、パイプライン建設に必要な鉄鋼製品を米国製で賄うことは、品質と数量の両面で難しいとしている。その上で、国内鉄鋼製品の使用義務付けは工事の遅れやプロジェクトの減少につながり、結果として、エネルギー生産の増加やインフラ投資の拡張などトランプ政権の政策に負の影響を及ぼすとしている。

主要エネルギー企業が加盟する米国燃料・石油化学製品製造者協会(AFPM)は、国内製品調達義務の導入に反対した上で、商務省がもしこの政策を推進するのであれば、必要な品質や数量の米国製鉄鋼パイプが入手できない場合には、調達義務の適用を免除することなどを検討すべきだと主張している。

米国では1933年バイアメリカン法により、連邦政府の調達においては米国製品の購入・使用が義務付けられており、米国製品で十分な品質や数量が入手できない場合などには、義務の適用を免除する例外規定がある。AFPMの提言は、パイプライン建設においても同様の例外規定導入を求めたものとみられる。

民間プロジェクトへの介入は異例

民間プロジェクトであるパイプライン建設に対して、米国政府が介入することの妥当性や合法性を問う声もある。米国ではバイアメリカン法に加えて、2009年の景気対策法や運輸省関係機関が連邦政府資金を拠出するプロジェクトなどでも国内品の調達が求められることがあるものの、パイプラインのような民間事業に対して国内品調達義務を課すことは異例だ。

米国商工会議所は「民間企業は調達に関して自由に決断を行えるべきだ」とし、国内品調達の推進に反対の立場を示している。また、2009年景気対策法においては、大きな雇用創出はなかった一方、建設コストの上昇、コンプライアンス順守への負担増などが生じたと批判している。

EUやカナダ、メキシコ政府も、民間プロジェクトに国内品購入義務を課すことは異例であり、悪しき前例となると批判している。これまでEUは米国政府とともに、第三国が導入する現地調達要求の撤廃を目指して取り組んできたが、米国が国内品調達義務を導入すれば、外国政府への働き掛けが難しくなるとしている。またWTOルールとの関係では、民間企業に対する国内品調達の義務付けは、国内品と輸入品を同等に扱うことを定めたWTOの内国民待遇(GATT第3条)違反に当たると指摘した。さらに、仮にプロジェクトが官民共同で実施される場合には、公共調達における内外無差別を規定したWTOの政府調達協定にも抵触する恐れがあると懸念を示している。

(注1)商務省は、4月7日の締め切り後に受理した情報提供もウェブサイトに随時掲載しているため、件数は閲覧時点で変わり得る。

(注2)USWとUSスチールが共同議長を務める鉄鉱石連盟(Iron Ore Alliance)名で情報提供。

(注3)AGA、API、石油パイプライン協会(AOPL)、州間天然ガス事業者協会(INGAA)、GPAミッドストリーム協会(GPA)の5団体が共同で情報提供書類を提出。

(鈴木敦)

(米国)

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