安倍首相、社会をスマート化する「ソサエティー5.0」を提唱-IT見本市「CeBIT2017」にパートナーカントリーとして参加-

(ドイツ、日本)

欧州ロシアCIS課、ベルリン発

2017年04月12日

 3月にドイツで開催された世界最大級のIT関連見本市「CeBIT2017」に、日本はパートナーカントリーとして参加した。安倍晋三首相がスピーチで、ドイツとの連携の下、イノベーションで社会をスマート化する「ソサエティー5.0」を提唱し、ジャパンパビリオンに出展した118の日本の企業・団体はデジタル技術を活用した多様な製品やサービスを展示した。

日独首相がジャパンパビリオンを視察

3月20~24日にドイツ・ハノーバーで開催された「CeBIT2017」は、IoT(モノのインターネット)をはじめとする先端技術を活用したBtoB(企業間取引)ソリューションの世界最大級の見本市。3,000を超える出展者のうち約1,600社は地元ドイツが占めた。キャッチフレーズは「D!conomy-no limits」(デジタル化経済、無限の可能性)で、第5世代移動通信(5G)、人工知能(AI)、クラウド、サイバーセキュリティー、スタートアップ、仮想現実(VR)などが主要分野だ。

パートナーカントリーとして参加した日本は、安倍首相の来場、前年の10倍超となる118社が出展した大規模パビリオン、シンポジウムでの日本の取り組み紹介などを通じて注目を集めた。ジェトロはジャパンパビリオンを運営したほか、ジャパンサミット(シンポジウム)、日本企業と海外企業とのネットワーキングイベントを開催した。

開会式で登壇した安倍首相は「AIをまとった機械やロボットは従来の任務のみならず健康やエネルギー供給など社会的課題を解決する使命を負っている。この実現のためには企業や国を越えた協力と協調、また新時代の教育と共通の規格が必要」と述べた。さらに、モノづくりに誇りを持ち、資源に乏しく国土が狭いながらもイノベーションと自由貿易により成長してきたという共通点を持つドイツに対して、モノがつながり技術が融合することでイノベーションが社会的課題を解決し持続可能な社会とする「ソサエティー5.0」の物語を一緒に書いていこうと提唱した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ドイツ政府は個人の能力を開花させ、企業の規模を問わず多数のプレーヤーが活躍できるデジタル化社会に向けた取り組みを行っていくこと、ドイツは新技術へのオープンさを日本から見習うべきであること、共通の価値観を有する日本とともに新技術の規制策定などで協力していくことを表明した。

また、両首相は初日にジェトロの石毛博行理事長の案内でジャパンパビリオンを視察し、出展企業から製品や最新技術について説明を受けた。

異業種ネットワーキングに最適の場

ジャパンパビリオンは、7,200平方メートルの大規模なスペースを「ライフ/オフィス/ソサエティー」「インフラ/ファクトリー」「エレメント」の3ゾーンに分けて構成した。118社の出展者の9割は初めての出展で、中小企業は50社だった。

接客ロボットを展示したロボットアプリケーション開発のユニキャスト(茨城県日立市)の三ツ堀裕太代表取締役は、「見本市への出展は日本国内外ともに初めて。ブース来訪者がとても多く、ドイツの経済担当相をはじめとする要人の訪問やマスコミの取材もあり、反響の大きさに驚いている。ドイツでのビジネス展開に向けて、コンサルティング、販売、開発などのパートナーシップについて複数企業からオファーも受けた」と語った。

スタートアップのデザインMプラス(東京都港区)は、これまで紙、PDFが主流だった楽譜を電子化(XMLファイル)し、配信するビジネスモデルの開発に取り組んでいる。山田誠代表取締役は「クラシック音楽の本場であるドイツで電子楽譜配信サービスの可能性を探り、事業パートナーを探すことを目的に参加した。似たアイデアを持つ事業者からの連携の打診やドイツでの市場調査のオファーもあり、当初の目的を達成できた」と話した。

リアルタイム3D技術を展示した金子製作所の秋山朋子取締役副社長は、「CeBITは一般的な専門見本市と異なり多様な業種の企業が参加しているため、ネットワーキングの場として最適だ。多くの来場者にリアルタイム3Dを見てもらうことで、今後の開発につながるような提案や示唆が多い」と感想を述べた。

また、ブリギッテ・ツィプリース経済・エネルギー相、ハノーバーを州都とするニーダーザクセン州経済・労働・交通相のオーラフ・リース氏らドイツの要人が相次いでジャパンパビリオンを視察した。

フォルクスワーゲンがスタートアップと連携

CeBITでは、斬新で革新的なアイデアにより産業のデジタル化の担い手として期待されるスタートアップ企業を集めたホールが用意され、セミナーやネットワーキングが行われた。フォルクスワーゲンは、優秀なスタートアップ企業にドイツ・ドレスデン工場のインキュベーション施設への入居と資金援助を提供する「Be Part of Future Mobility」と題したコンペを開催、ドイツをはじめイタリア、ポルトガルなど10のスタートアップ企業が参加した。また、IoTやデジタル関連スキルを持つ人材を雇用したい企業と職探しをする人のマッチングやセミナーも開催されるなど、CeBITはデジタル化に関する総合プラットフォームとして機能しているようだ。

日本とドイツ・欧州連携の枠組みが進展

日本がクローズアップされた今回のCeBITを機に、日本とドイツ・欧州との連携が進展した。

3月19日に、第4次産業革命に関する日独協力の枠組みを定めた「ハノーバー宣言」に世耕弘成経済産業相、高市早苗総務相およびツィプリース経済・エネルギー相が署名した。サイバーセキュリティーや国際標準化、中小企業支援など9項目が協力事項として挙げられた。また、ジャパンパビリオンに出展した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とニーダーザクセン州経済・労働・交通省および同州内の電力供給管理組織が「大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業」の実施に合意し、基本協定書を締結した。

3月20日にジェトロがCeBIT主催者のドイツメッセと共催したジャパンサミットにおいて、IoT推進コンソーシアム(ITAC)と欧州委員会が設立したIoTイノベーション・アライアンス(AIOTI)がグッドプラクティスの確認・共有や標準化への取り組みなどを内容とする覚書に書名した。また3月21日には、ジェトロの眞銅竜日郎理事とチェコ投資・ビジネス開発庁(チェコインベスト)のカレル・クチェラ長官が既存の連携強化の覚書にデジタル化分野の協力を追記した。

写真 ジャパンパビリオン(ジェトロ撮影)

(鷲澤純、小菅宏幸)

(ドイツ、日本)

ビジネス短信 2e50a128af33afd2