メイ首相、解散・総選挙6月8日実施の意向表明

(英国)

ロンドン発

2017年04月19日

 テレーザ・メイ首相は4月18日、議会下院を解散し、6月8日に総選挙を前倒し実施する意向を表明した。野党各党も首相の決断を支持しており、議会解散について下院の承認が得られる公算は高く、EU離脱(ブレグジット)の交渉方針を最大の争点に1ヵ月半にわたる選挙戦が始まる。

EU離脱交渉を前に「やむを得ない決断」

メイ首相は2016年7月の就任以来、議会の早期解散を否定し、現在の議員の任期が満了する2020年までの解散は行わないと繰り返し述べてきた。しかし、EU離脱や新たなEUとの関係性をめぐる交渉についての政府の方針が明らかになるにつれ、これを強硬路線だとする野党を中心に批判が高まっていた。同時に、メイ政権が総選挙を経て誕生した政権ではないことから、総選挙を経ることでEUとの交渉方針に対する国民の信を問おうとする声が強まっていた。

首相官邸前で声明を発表したメイ首相は「野党各党がEUとの交渉方針に反発を強める中で、今総選挙に踏み切らないと政治ゲームが続くことになる」と述べ、政治的な不安定さが交渉に与える影響に懸念を示し、「2020年に予定される次期総選挙が近づけばEUとの交渉が一層難しくなる」とし、早期解散もやむを得ないと判断したと、決断に至った経緯について説明した。その上で、「EUが交渉方針を(加盟国間で)合意し、本格的な交渉に入る前のタイミングで総選挙の決断をすることは1回限りの機会だ」とし、EUとの交渉に当たる政権の安定性を高めつつ、国民の支持基盤を固めることにつながると結論付けたと説明した。

労働党はじめ野党各党は早期解散を支持

メイ首相は4月19日にも総選挙を6月8日に実施する動議を下院に提出する、と語った。英国では「2011年議会期固定法」で議会開催の要件が定められている。下院議員(定数650)の任期は5年間とされているが、同法では、下院が定数の3分の2以上の多数で総選挙実施の動議を可決したときに早期解散が認められている。

現在の下院議員の構成を政党別にみると、与党・保守党の議席数は330で、単独では3分の2に至らない。早期解散には野党の協力が必要になるが、各党ともメイ首相の決断を支持する意向を表明している。最大野党の労働党のジェレミー・コービン党首は「国民の利益を第一に考える政権を作り上げるための機会となるメイ首相の決断を歓迎する」とコメント、自由民主党のティム・ファロン党首は「ハードブレグジットを避け、EU単一市場への残留などを望むのであれば総選挙はチャンスだ」とした。また、英国からの独立の是非を問う2度目の住民投票に意欲を示すスコットランド独立党(SNP)の党首でもあるニコラ・スタージョン・スコットランド政府首相も、「近年の政治史上ではまれなUターン」とメイ首相の決断を表現し、スコットランドの住民が自身の将来を選択するための機会となると述べた。

金融市場ではポンドが急伸

メイ首相の決断に対して、英国産業連盟(CBI)は「総選挙の実施がEUとの交渉で最大限の成果を得るという喫緊の課題から関心がそれることにつながることを懸念している」として、いずれの党が勝利を収めようと、EUとの貿易の円滑化を保証するよう注文を付けた。

金融市場では、メイ首相の発表を前に急落していたポンドが大きく反転、1ポンド=1.29ドルを超える水準に急伸した。これについて「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版4月19日)は、総選挙がメイ首相の政権基盤の強化につながり、より柔軟にEUと交渉するためのきっかけになるという期待感の表れと説明している。

保守党の支持率は40%超

なお、調査会社ユーガブ(YouGov)が4月12日から13日にかけて実施した最新の世論調査(回答数2,069人)によると、党派別支持率は保守党が44%を占め、労働党23%、自由民主党12%、英国独立党(UKIP)10%と続いた。また、メイ首相と労働党のコービン党首のいずれが首相にふさわしいかとの問いに対しては、50%がメイ首相と回答、コービン党首は14%にとどまった(「分からない」が36%)。また調査会社イプソスモリが3月に行った調査(回答数1,032人)では、43%が保守党を支持すると回答、労働党支持は30%となっている。

(佐藤央樹)

(英国)

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