医薬品・医療機器分野の制度改定と直接投資収益性の高さを評価-2017年外国貿易障壁報告書(日本編)-
(米国、日本)
米州課
2017年04月19日
米通商代表部(USTR)は3月31日、2017年版外国貿易障壁報告書を発表した。日本については医薬品・医療機器分野の制度改定を評価するとともに、直接投資による収益が高いことを理由に、投資先として重要だとした。一方、加工食品の原料原産地表示制度、合板・製材の生産性向上対策、公正取引委員会の独立性、薬価改定などの面で新たな懸念が示された。
日本での投資見通しは改善
外国貿易障壁報告書(NTE)は、米国の貿易相手国における貿易障壁とその改善の進捗を調査したもので、毎年3月に発表される。通商政策立案時の参考資料として利用されるため、今後トランプ政権の相手国との対話を占う上で参考となる。今回の報告書で、日本に関する記述は16ページと前年レポートから1ページ減った。対象には、貿易の技術的障壁、衛生・植物検疫、輸入政策、サービス障壁、知的財産権保護、政府調達、投資障壁、反競争的行為などの分野が含まれた(表参照)。
まず、貿易障壁では、医薬品と医療機器の償還に係る意思決定プロセスが全般的に改善されたことが示された。また、日本側の制度変更に伴い、前回報告書に記載のあったゼラチンとコラーゲンの輸入制限に関する記載が削除された。
投資障壁の面では、安倍晋三政権の対日直接投資倍増目標とその取り組みを認めるとともに、対日直接投資による収益がOECD加盟国で3番目に高い10%であることを理由に、日本での投資見通しが改善していることは米国企業にとって重要との認識を示した(注)。
原料原産地表示など新たな懸念も
一方、新たな障壁として盛り込まれたものもある。例えば、貿易の技術的障壁として、加工食品成分の原料原産地表示が追加された。これは、日本の農林水産省が「加工食品の原料原産地表示制度」の対象範囲拡大と記載の見直しを検討していることを受けたものだ。制度そのものは2000年に導入され、現在22種類の食品グループと4食品に適用されているが、米国側は制度見直しによって食品原料の輸出に不利益が生じることへの懸念を示す。加工食品原料の一部として輸入原料が利用される場合に、生産者が表示を簡素化するために原料調達先を見直す可能性や、複雑な成分表示方法を特に問題視している。
分野 | 項目 | 障壁内容 |
---|---|---|
貿易技術的障壁および衛生・植物検疫 | 加工食品の原料原産地表示(※) | 「加工食品の原料原産地表示制度」の今後の運用 |
食品安全性 | 牛肉、食品添加物、収穫前・後の殺菌剤、残留農薬など | |
植物検疫 | 加工用じゃがいもの輸入規制 | |
輸入政策 | コメ | 現状の輸入制限措置と売買同時入札制度 |
小麦 | 国家貿易制度 | |
豚肉 | 差額関税制度 | |
牛肉セーフガード | 特別セーフガード | |
魚介類 | 一部品目を対象にした関税および非関税障壁 | |
高関税品目 | シトラス、乳製品、加工食品、その他農産品の高関税 | |
木材・建築資材 | 政府による国内林業支援制度 | |
皮革・靴 | 現状の関税割当制度 | |
税関 | デミニマス、事前教示制度の対象拡大 | |
サービス障壁 | 日本郵政 | 民営化プロセス、宅配事業、郵政改革プロセス |
保険 | かんぽ保険、共済制度、銀行での保険販売、保険契約者保護機構 | |
その他金融 | 確定拠出型年金、持続可能な融資慣行、顧客情報の共有など | |
通信 | 公正な事業機会、規制枠組み、透明性、独占的通信事業体、新携帯無線事業免許 | |
情報技術 | 健康分野におけるIT活用、プライバシー | |
法務 | 法務サービス市場の自由化 | |
教育 | 海外の大学の開校 | |
知的財産権保護 | 知的財産権保護、著作権侵害削減に向けた更なる強化など | |
政府調達 | 政府調達協定の履行 | |
投資障壁 | M&Aに関する企業統治、法制度、透明性など | |
反競争的行為 | 独占禁止法の順守・抑止 | カルテル、不正入札に対する執行 |
公正取引委員会の公正性と透明性 | 公正取引委員会の手続きの公正性と透明性 | |
公正取引委員会の独立性(※) | 独占禁止法の解釈・執行に関する公正取引委員会の独立性 | |
その他分野・分野横断的課題 | 透明性 | 諮問グループの構成と機能 |
パプリックコメント | パブリックコメントの実施方法 | |
商法 | 対日投資関連制度、商法・企業統治の改善など | |
自動車 | 不十分な市場アクセス、非関税障壁 | |
医療機器・医薬 | 新製品審査、薬価改定プロセスなど | |
栄養サプリメント | 栄養サプリメントの認可、対象 | |
化粧品と医薬部外品 | 輸入手続き、事前審査、広告などの規制 | |
航空宇宙 | 防衛産業における調達など |
(注)*は新規追加項目。
(出所)2017年版外国貿易障壁報告書を基に作成
輸入政策では、米国側は従来、木材・建築資材を対象にした政府の産業支援策に関心を示してきたが、2015年に補正予算として農林水産省が新設した290億円の合板・製材生産性強化対策事業向け基金の支出用途を注視することが盛り込まれた。反競争的行為としては、公正取引委員会の独立性への関心が示された。経済産業省のデジタル市場の競争政策を主題とした研究会の「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書」(2016年9月発表)で、商慣行の中に独占禁止法に違反している行為が含まれることが指摘されたことに関連して、米国政府は公正取引委員会が独占禁止法の解釈・執行に関して独立性を担保しているかを見守る方針だ。
医薬品分野でも、2016年4月に導入された市場拡大再算定に伴う薬価見直し、2015年と2016年に行われた緊急薬価改定、2016年後半に行われた年次薬価改定時にステークホルダー向け事前相談期間が通常より短かったことを問題視し、米国を含む全てのステークホルダーに対して透明性あるプロセスと関連情報を入手する機会を日本政府に求めることが盛り込まれた。
(注)OECD「FDI IN FIGURES(2016)」による。特に、金融・保険サービス分野の投資収益は世界で2番目に高い11%。
(秋山士郎)
(米国、日本)
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