日曜・祝日の割増賃金引き下げへ、労組などは反発

(オーストラリア)

シドニー発

2017年04月04日

 オーストラリア公正労働委員会(FWC)は2月23日、小売業や飲食業などに従事する労働者を対象に、日曜・祝日の割増賃金の引き下げを実施すると発表した。今後パブリックコメントを経て、早ければ7月1日にも施行される見通しだ。

日曜の割増賃金は最大で25%減少

FWCによると、日曜・祝日の割増賃金には主に、(1)休日勤務手当と、(2)雇用者に休日勤務を抑制させる、という2つの目的があるという。今回FWCは、これら目的を見直し、(2)を除外することを決め、割増賃金の目的を(1)の休日勤務手当のみとした場合、現行の賃金水準は高額だとして、割増賃金の引き下げを決定した。また、労働の限界不効用(追加労働によって生まれる苦痛や不快)が以前と比べて低下していることも、割増賃金引き下げの要因としている。

引き下げの対象は小売業、飲食業(ファストフード)、ホスピタリティー業(注)、薬局業で、早ければ7月1日にも施行される見通し。日曜日の割増賃金率は最大50ポイント、祝日は最大25ポイントの引き下げとなる(表参照)。日曜の割増賃金が最大25%減となるなど、引き下げ幅が大きいことから、FWCは労働者の収入減に考慮し段階的に引き下げることを検討している。

割増賃金率の水準(単位:%)
休日 業種 フルタイム・パートタイム 臨時雇用
現在 予定 現在 予定
日曜 小売り 200 150 200 175
ファストフード 150 125 175 150
ホスピタリティー 175 150 175 175
薬局 200 150 200 175
祝日 小売り 250 225 275/250 250
ファストフード 250 225 275 250
ホスピタリティー 250 225 275 250
薬局 250 225 275 250

(出所)公正労働委員会(FWC)

産業界は賛成、労組や野党は反対

オーストラリア商工会議所(ACCI)やオーストラリア小売業協会(ARA)などの産業団体は、FWCの決定を歓迎している。ACCIの最高責任者ジェイムス・ピアソン氏は「割増賃金の引き下げは新しい雇用を生み出し、サービス向上につながる」と指摘する。また、ARAの最高責任者ラッセル・ジマーマン氏は「労働需要の増加で、新しい仕事を求める若年労働者に対して新たな雇用機会が与えられる」としている。ただ、ARAは割増賃金の引き下げ水準は激変緩和のため2段階で導入すべき、と主張している。

一方、オーストラリアの各労働組合や野党・労働党は、例えば日曜日に8時間働いた場合、1ヵ月の給与額は約15%減少するなどとして、労働者に重い負担を強いると反発している。オーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、約70万人が引き下げの影響を受け、年収が6,000オーストラリア・ドル(約51万円、豪ドル、1豪ドル=約85円)減少する労働者もいると指摘する。ACTU会長のゲド・カーニー氏は「顧問弁護士によると、看護師、教育関係者、ソーシャルワーカー、輸送作業者など、引き下げの対象業種以外にも影響を及ぼす可能性がある」として、反対を続けていく姿勢を明らかにした。

(注)宿泊業や旅行業など接客サービスを提供する業種全般を指す。

(小柳智美)

(オーストラリア)

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