英国がEUとの関税同盟に留まることを期待-欧州委の農業担当委員がダブリンで発言-

(EU、アイルランド、英国)

ブリュッセル発

2017年04月25日

 欧州委員会のフィル・ホーガン委員(農業・農村開発担当)は4月24日、自身の出身国であるアイルランドの首都ダブリンで開催された英国のEU離脱(ブレグジット)フォーラムに登壇し、「今後数ヵ月の離脱協議の中で、英国政府が『最善策は(EUとの)関税同盟関係を維持するほかない』と悟ることを期待する」と語った。ブレグジットの結果、アイルランド農業を支えてきたEU共通農業政策(CAP)予算や、英国への農産品輸出が打撃を被ることへの警戒感をにじませた。

アイルランドの農業に既に打撃

欧州委のホーガン委員は4月24日、アイルランド農業者協会(IFA)がダブリンで開催した、ブレグジット問題をテーマとするフォーラムで基調講演し、「(アイルランドの主要産業としての)農業」の視点で、ブレグジット問題について自身の見解を述べた。同委員は、(1)(EUおよびアイルランドの)農業・食品産業の基盤を守る視点、(2)英国のEU離脱以降のEU27ヵ国体制におけるCAP再建の視点、(3)(英国と国境を接する)アイルランド市民生活を守る視点の3点から、多角的にこの問題を捉えるべきだと指摘した。特にCAP予算については、負担国の1つである英国がEUを離脱した場合、厳しい運営を迫られることを懸念。さらに、ブレグジット問題の浮上以降、急速に進んだ対ポンドのユーロ高の影響で、ユーロ圏であるアイルランドの英国に対する農産品輸出が打撃を受けていることを問題視した。

対英農産品輸出における米国の台頭を警戒

英国のテレーザ・メイ首相が6月8日に総選挙に打って出ることについて、ホーガン委員は「この問題をさらに複雑化するリスクがある」と警鐘を鳴らす。同委員は、メイ首相が総選挙実施を決めた動機を「英国保守党内の過激なグループに対抗し、ブレグジットについて現実的で常識的な解決策を導くために、同首相の立場の強化を狙ったもの」と分析しているが、選挙は本質的に予測不能なもので、「そうなる保証はどこにもない」とする。

またホーガン委員は、今後のEUとの通商関係をめぐるメイ首相の発言について、EUとの関税同盟関係の維持を示唆しているにもかかわらず、EUの共通関税政策が今後、英国のEU域外諸国との自由貿易協定締結の妨げになるとしていることに矛盾があるとして、厳しく批判した。特に、将来的な締結の可能性が想定される「英国と米国の通商協定」については、これまで米国とは異なるEUの食品安全基準に準拠してきた英国の農業生産者と消費者が、何の矛盾もなく米国の食品安全基準を受け入れるのか、大いに疑問だと指摘。今後、数ヵ月の離脱協議の中で、英国政府が、最善策はEUとの関税同盟関係を維持するほかにないと悟ることを期待する、と語った。

英国のEU離脱以降に、農業大国でもある米国が英国への農産品輸出国として台頭し、アイルランドの対英輸出が脅かされることへの警戒感がにじむ。

(前田篤穂)

(EU、アイルランド、英国)

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