トランプ政権の重商主義的な通商政策を疑問視-ブルッキングス研究所の外交専門家に聞く-

(米国)

米州課

2017年03月03日

 トランプ大統領は2月28日の連邦上下両院合同会議での演説で、「自由な貿易を強く信じるが、公正でなければならない」との持論を披露した。同氏が標榜(ひょうぼう)する重商主義的な通商政策について、ブルッキングス研究所で外交問題を担当するミレヤ・ソリース上級研究員はインタビュー(3月2日)で、その効果に疑問を示した。

<十分ではない貿易救済措置>

問:大統領就任後のトランプ政権の政策運営をどうみるか。

 

答:新政権の政策運営については、関係者の正式な就任に時間がとられ、依然として先行きは不透明な状況が続いている。選挙期間中から「観念的な(ideological)考えに基づく公約が特徴だったが、移民政策の混乱やフリン国家安全保障補佐官の辞任などをきっかけに軌道修正が進み、徐々にではあるが従来の(conventional)政府の方針に近づきつつある。

写真 ミレヤ・ソリース上級研究員(ジェトロ撮影)

問:通商政策はどうか。

 

答:トランプ氏の通商政策は、「単純化した分析に基づき、不公正な貿易関係を是正する」という極めて観念的な性格をもつ。バノン大統領首席戦略官、ロス商務長官、ナバロ国家通商会議委員長、ライトハイザー通商代表候補は、いずれもこうした政策に沿った人事だ。選挙期間中から、従来の貿易によって不利益を被った層を「忘れられた人々」としてスポットライトを当てた。この観念的なアプローチ、それを支援する人事、選挙民の組み合わせが特徴といえる。

 

 これらメンバーの共通した考え方は、1980年代にみられた、貿易赤字を解決するために一方的措置を行使することをいとわないという「貿易を管理する(manage)」視点だ。そこでは、統治(governance)ではなく、強制(enforcement)が優先されることになる。ただし、重要なのは、こうした重商主義的なアプローチは貿易救済措置として必ずしも十分ではないということだ。例えば、相手国の不公正な貿易慣行に対して発動する1974年通商法の301条の行使などは、1980年代に必ずしも成功を収めたとはいえない。相手国による報復措置も予想される。ティラーソン国務長官、コーン国家経済会議委員長はよりグローバルな視点を有しているが、彼らへの権限委譲はこれまでみた限り限定的だ。

 

<まずはNAFTAの見直しに着手か>

問:新政権の主要課題は。

 

答:大きな問題が3つある。1つは、付加価値税(VAT)の国境措置の問題。現在、議論が進んでいる国境調整税(BAT)は、関税ではないものの、(報じられている案のままだと)WTOルールに抵触する。2つ目は、一方的措置をどのように扱うかという問題。3つ目は、中国の市場経済国認定をどうするかという問題。体制が整い次第、政権はこれらの問題に取り組む必要がある。

 

問:既存の通商協定の見直しの行方は。

 

答:トランプ政権は最初に、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに取り組むだろう。関係閣僚の議会承認が済み次第、交渉に先立ち、議会に通知を行う見込みだ。NAFTAについてはメキシコおよびカナダと2国間で協議するという案もあるが、経済界からは現状維持を望む声が強く、今後、ステークホルダーを対象とした公聴会の場で修正が図られることを期待している。

 

 NAFTAの条文で見直される可能性が高い分野の1つが救済措置だ。例えば、NAFTAで規定されているアンチダンピングは利用率が低く、ルールが見直される可能性が高い。また、カナダとメキシコは、NAFTA条文の現代化(modernization)に高い関心を有している。電子商取引、国有企業、知的財産権、サービス、貿易円滑化などを対象にしたいと望んでいる。それから、原産地規則の見直しも注目される。今のルールよりも厳格になる可能性がある。一方、メキシコとの間の物品の市場アクセスについては見直しを求める声があるが、見直す可能性を否定しているメキシコ政府を一部の米国企業が支援する構図となっている。

 

問:対日関係の展望は。

 

答:2月10日に行われた日米首脳会談の内容は良いものだった。トランプ大統領と安倍晋三首相は通商問題自体には触れず、両国経済が補完関係にあることを認め合う内容だったからだ。個人的には、日本が米国抜きの環太平洋パートナーシップ(TPP)にどのように応じるかに興味を持っている。

 

(秋山士郎)

(米国)

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