欧州議会、英国でEU市民の権利が侵害と問題視

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年03月09日

 欧州議会は3月2日、英国のEU離脱問題をめぐり、英国で生活するEU市民の権利について憂慮するとの内容の見解を明らかにした。英国政府は、離脱以降はEU市民の権利を保障しないとしており、前日に開催された本会議では「英国で住民登録を申請したEU市民の28%が『不受理』あるいは『無効』扱いされている」との報告や、「英国に居住するEU市民から同様の懸念が出ている。彼らを政治的交渉の材料にすべきでない」と英国への批判が出ていた。

<英国政府は従来のようには保障しない方針>

 欧州議会は3月2日、英国のEU離脱問題に絡んで、「英国で生活するEU市民の権利保全に留意すべき」との見解を発表した。3月1日の本会議でもこの問題について審議、公聴会を開くなどしているが、310万人と見込まれる在英EU市民の権利が、離脱以降は尊重されなくなるのでは、と懸念を深めている。

 

 英国政府はこれまでのところ、EU離脱以降は英国でのEU市民の権利を従来のようには保障しない方針で、欧州議会は、EU市民による英国での権利主張に支障を来す事例や、数年間英国に居住してきたEU市民が国外退去を求められる事例が報告されているとしている。3月1日に開かれた本会議で、中道左派の社会・民主主義進歩連盟(S&D)所属のクロード・モラエス議員(英国選出)は「英国で(EU離脱をめぐる国民投票以降に)住民登録を申請したEU市民の28%が『不受理』あるいは『無効』を受けた」と報告した。また、同議員は「ここでEU市民の悲劇や英国の行政手続きの問題をあげつらうつもりはないが、われわれが守るべきEU市民の権利が無視され、それが英国政府の政策によるものだとすれば話は別で、欧州委員会は断固たる措置を取るべき」と主張した。また、リベラル派の欧州自由民主同盟(ALDE)所属のキャサリン・ベアダー議員(英国選出)も「他の欧州議員と同様に英国に居住するEU市民から多くの連絡を受けている。彼らの多くは医師や看護師、学生や教員であり、政治的な交渉の材料にすべきでない」と英国の対応を批判した。

 

<専門家招いて公聴会続ける欧州議会>

 欧州委のベラ・ヨウロバー委員(法務・消費者・男女平等担当)は「英国がEU加盟国である限り、(これまでの)全ての権利・義務関係は存続する。英国に住むEU市民が将来の権利に懸念を抱いていることを重く受け止めている。英国に暮らすEU市民には英国のEU離脱以降に権利がどうなるかについて知る権利がある。それと同じことは(英国以外の)EU27ヵ国に住む(120万とされる)英国市民(の権利)についても当てはまる」としている。

 

 欧州議会は、英国のEU離脱問題に伴う人々への影響を注視し、専門家を招いて公聴会を続けるとしている。最近では、2月28日に開催された域内市場・消費者保護委員会の公聴会で、エラスムス大学(ロッテルダム)のファビアン・アムテンブリンク教授(博士)が「(EUと英国の経済関係については)交渉の結果、包括的自由貿易協定(FTA)の形態となる可能性が高い」と指摘したものの、「このFTAについての単純な青写真やモデルを想定することは難しい」と具体的には言葉を濁した。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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