日本とのEPA、早期妥結にEUは期待感表明-日EU首脳会談-

(EU、日本、英国)

ブリュッセル発

2017年03月23日

 欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長と欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は3月21日、欧州歴訪中の安倍晋三首相と日EU首脳会談を行い、「日EU経済連携協定(EPA)」の早期妥結に対する期待感を表明した。また、保護主義的な動きが台頭する中、会談では孤立主義への回帰ではなく、自由かつ公正な貿易システムの重要性があらためて確認された。また、英国のEU離脱(ブレグジット)問題への対応で、安倍首相は日系企業の円滑な経済活動が維持されるための配慮をEUに要請し、トゥスク常任議長は日系企業に対する一定の配慮を示唆した。

<保護主義的な機運を牽制>

 欧州歴訪中の安倍首相は3月21日にブリュッセルを訪問し、欧州理事会(EU首脳会議)のトゥスク常任議長および欧州委のユンケル委員長と日EU首脳会談を行った。トゥスク常任議長は会談に臨み、「EUとして、日EU・EPAと戦略的パートナーシップ協定の双方について、早期に妥結する用意がある」と述べた。また、ユンケル委員長も「(EPAについて)われわれと日本との交渉は今、『重大』かつ『(望むらくは)最終的』な局面を迎えている」と発言、「次回(5月)のG7首脳会議(イタリア・タオルミーナ)や、次回の日EU首脳会談では安倍首相と緊密な連携を図り、首尾よくEPA交渉の妥結に持ち込みたい」とEPA交渉の年内妥結に向けた期待感をにじませた。また、同委員長は「われわれは法の支配の下、自由で公正な貿易を信奉するが故に、日EU・EPAが不可欠と考えている。われわれは孤立主義に回帰するのではなく、世界に開かれているべきだ」とも述べ、世界で台頭する保護主義的な機運を牽制した。

 

 ユンケル委員長は「交渉では最後に残された課題の解決が最も難しいものだ」とも指摘、依然として課題が残されていることを示唆したが、「今日の(安倍首相との)協議の結果、年内合意に道筋がついたと確信する」との見通しを示している。

 

 また、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のマルクス・バイラー事務局長は3月21日、今回の日EU首脳会談に関する声明を発表し、「2017年内に日EU・EPA(交渉)を妥結することの現実性は高まっている。双方とも交渉開始時に比べて相当歩み寄っている」「しかし、目標の実現のためには市場アクセス、公共調達、非関税障壁の撤廃、地理的表示保護などで野心的である必要がある」と指摘した。また、米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの撤退について、「自由貿易システムはかつてない『逆風』に直面しており、その効果を認識する者が強いメッセージを発信すべきということが明らかになった」「EUと日本は世界有数の自由貿易の受益者だ」との認識を示した。

 

<首相はブレグジット以降も日系企業への配慮を要請>

 他方、トゥスク常任議長は英国との離脱協議について、「(英国政府が3月29日に離脱通告を行うと発表したことを踏まえて)EU理事会(首脳会合)を4月29日に招集し、離脱協議のガイドラインを採択する」との考えを示した。今回の首脳会談で安倍首相は、(ブレグジット以降も)日系企業の円滑な経済活動が維持されるよう配慮することをEUに要請している。これを踏まえてトゥスク議長は「英国との離脱協議におけるわれわれの優先課題は、悪影響を受けるEU加盟国、企業、市民など『関係者』にとって、(リスクがある場合でも、その状況についての)確実性と透明性をできる限り確保することだ。この『関係者』には、日本のような世界の友人たちも含まれる」との認識を示している。

 

 なお、欧州委は3月6日、同委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)の見解を発表し、「EUは自由貿易協定(FTA)交渉について順番に進めているわけではない。同時並行的に複数の交渉を進めているのが実態だ」「もし、英国が将来のEUとの経済関係の在り方としてFTAを選択するならば、既に進めている17の通商交渉に追加となるだろう」とした。

 

(前田篤穂)

(EU、日本、英国)

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