付加価値税率を3ポイント引き上げ、消費に悪影響も-中南米の制度改定動向-

(コロンビア)

ボゴタ発

2017年03月01日

 コロンビアでは2014年末の税制改正からわずか2年で、新たな税制改正案が議会で承認された。付加価値税(IVA)の標準税率3ポイント引き上げや、一部食品に適用されていたIVA特別税率が廃止され標準税率が課されることなどが、消費者に与える影響は大きいとみられる。財政健全化のために不可欠とされていた税制改革が実現したことにより、格付け会社によるソブリン債の格付け引き下げは当面回避したが、今後18ヵ月間で財政状況が改善しない場合には、見直しの可能性もある。

<2022年までに22兆ペソの追加税収見込む>

 2014年12月の税制改正に対する企業の反発(2016年3月2日記事参照)を受け、ここ数年の原油価格下落で生じた財政赤字解消も焦点として、議会で審議されてきた新たな税制改正案が2016年12月30日に承認され、2016年法律第1819号として施行された。マウリシオ・カルデナス大蔵・公債相は、1年目の2017年に6兆5,000億ペソ(約2,535億円、1ペソ=約0.039円)、その後2022年までに計22兆ペソの追加税収が見込まれるとし、過去の税制改正の中で最も意欲的な構造改革だ、と自信を示した。フアン・マヌエル・サントス大統領は、新たな税収はさまざまな社会プログラムの財源となり、数年のうちに多くのコロンビア人に還元されるだろうと述べ、国民に理解を求めた。

 

 一方、産業界の反発は根強い。コロンビア産業連盟(ANDI)代表のブルース・マック・マスター氏は、前回の税制改正から2年間、構造的かつ国際競争力を高めるための新たな税制を期待していたが、その機会は失われたとし、2014年の税制改正から有意な進展がなかったことに憤りをみせた。

 

<付加価値税率の引き上げや法人税の簡素化を実施>

 今回の税制改正により、IVAの標準税率が16%から19%に引き上げられた(表参照)。対象品目は全品目の59%だが、今まで特別税率として5%が課税されていたパスタ、マーガリン、ソーセージ、シリアル、家事用品、衣類などの税率も19%に引き上げられており、消費者への影響は大きい。

表 主な税制改正

 法人に課せられていた所得税、保有資産税、公平税(CREE)およびその上乗せ課税は所得税に一本化され、税率は2018年には33%となる。しかし、フリートレードゾーン(保税地区)を利用する企業に対しては15%だった所得税が20%に引き上げられることになり、投資と雇用への影響が懸念される。一方、ロイヤルティーにかかる源泉税率は33%から15%へ、配当金にかかる源泉税率は0%から5%に改正された。法人税の種類は減ったものの、税率は必ずしも低下しておらず、産業界が期待していた内容にはなっていない。

 

 また、環境関連税制としてスーパーなどで使用されるプラスチック製レジ袋に対する課税や、小規模事業主に対する単一課税が新設された。金融取引税の税率0.4%(1,000ペソに対し4ペソ)は据え置かれた。

 

 コロンビアの税制の複雑さと実効税率の高さは、世界銀行が発表している「Doing Business 2017」の競争力指数にも表れている。総合では190ヵ国中53位と中南米諸国ではメキシコに次いでビジネスのしやすい国となっているが、徴税の項目は139位と低い評価になっている。1990年以降、1~3年ごとに計14回もの税制改正が行われており、コロンビアに進出している日系企業から、ビジネス活動を展開するに当たっての阻害要因として最も多く挙げられるのが税制だ。

 

<S&Pの格付け引き下げは回避>

 今回の税制改正の目的の1つに、格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)による長期外貨建て債務格付けの引き下げ回避があった。S&Pは2016年2月、原油価格下落が経済に及ぼす悪影響を理由に、サウジアラビアやブラジルを含む産油4ヵ国の格付けを引き下げた。この時、輸出総額の36%を原油が占めているコロンビアは、格下げを免れたものの、見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に修正されていた。

 

 今回の税制改正を受けて、S&Pは1月18日、コロンビアの格付けを「トリプルB(ネガティブ)」に据え置くと発表した。同時に、次の18ヵ月間で財政状況が改善しない場合には、格付け見直しの可能性があることも示した。

 

(茗荷谷奏)

(コロンビア)

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