各国との租税条約交渉が進む-二重課税回避し貿易・投資を円滑化-

(カンボジア)

プノンペン発

2017年03月24日

 カンボジア租税総局(GDT)は3月、インドネシアとの租税条約の締結に向けた2回目の交渉を行ったと発表した。既にシンガポールおよび中国との間で租税条約を結んでおり、今後インドネシアとも同様の条約が締結されるとみられる。またGDTは、その他ASEAN諸国との交渉も進めていくとしている。

<シンガポールや中国とは調印、インドネシアとも交渉中>

 GDTは、二重課税、脱税、租税の回避などへの対応を通じ、2国間の健全な投資と経済交流を促進するため、近隣国との間で租税条約の締結を進めており、シンガポール(2016年5月20日)および中国(同10月13日)と租税条約に調印している(未発効)。シンガポールとは、カンボジアにとって初めての租税条約締結となった。租税条約には国際標準となる「OECDモデル租税条約」(注)があり、カンボジアが締結した両租税条約は同モデルとおおむね同じ内容だ。例えば、法人税や個人所得税の課税権を2国間で調整し、二重課税を回避するというものだ。

 

 また、GDTは2017年3月7~9日に、インドネシアと租税条約の締結に向けた2回目の交渉を行ったと発表した。具体的な条約内容や締結時期については明らかにされていない。これら条約が発効すれば、締結国間の貿易や投資の円滑化が期待される。

 

<源泉徴収税と個人所得税、日系企業に直接影響>

 シンガポールおよび中国との間で締結された租税条約について、在カンボジア日系企業に直接関係する事項としては、源泉徴収税と個人所得税が挙げられる。

 

 まず、源泉徴収税については、カンボジア国内企業からシンガポール居住者、中国居住者に支払われる配当金、利子、ロイヤルティー、テクニカルサービスフィーに対して課される源泉徴収税の税率は原則として10%に軽減される(国内法では14%)。

 

 また、個人所得税については、シンガポール居住者、中国居住者である個人がカンボジアで勤務することで取得する給与は、次の3つの要件を満たす場合、非課税となる。

 

○12ヵ月間における当該個人のカンボジア滞在累計日数が183日未満。

○国外にあるグループ会社など、カンボジア居住者ではない雇用者が給与を支払う。

○カンボジア支店などが、給与を負担しない。

 

<国際課税の概念や原則、十分に浸透せず>

 大手会計事務所KPMGカンボジアは「シンガポールや中国の税制とカンボジアの税制は異なる面が多く、さまざまな課題が生じる可能性がある」とする。租税条約には先進国で一般的な国際課税の概念や原則による条項が数多く含まれているが、それらはカンボジアにおいては十分に浸透しているとはいえない。

 

 租税条約によって貿易、投資を円滑化させるためには、GDTが租税条約を適切に執行しなければならない。両国税務当局の相互協力が不可欠であり、カンボジアにおける税務手続きに関するコンプライアンス強化や透明性の向上も求められる。

 

(注)OECDモデル租税条約の概要については、財務省ウェブサイト参照。

 

〔田村陽一/プノンペンプラットフォーム(税務・会計分野)、岸有里子〕

(カンボジア)

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