「米国第一主義」徹底する姿勢強調、トランプ大統領が施政方針演説

(米国)

ニューヨーク発

2017年03月08日

 トランプ大統領は2月28日、連邦議会で施政方針演説を行い、政策運営において米国民の利益を最優先する「米国第一主義」を徹底する姿勢を強調した。その上で、貿易、移民制度、インフラ開発、医療保険制度改革(オバマケア)など、新政権の主要課題についても述べた。各政策の詳細については触れられなかったものの、現地の主要メディアや演説後に行われたアンケート調査では演説内容を評価する声が多い。

<保護主義的な政策導入を示唆>

 トランプ大統領は、2月28日に連邦上下両院合同会議で行った施政方針演説の冒頭、「われわれはあまりにも長い間、仕事や富を外国に送り、中間層が縮小していく姿を見てきた」「他国の国境を守る一方、自国の国境を広く開いたままにし、人や麻薬が国内に自由に流入することを許してきた」「国内のインフラがボロボロの中で、海外で何兆ドルも支出してきた」と述べ、これまでの米国政府の姿勢を批判した。そして、2016年(の大統領選挙では)何千万人もの米国人が「米国は国民(の利益)を最優先しなければならない」との要求の下に団結したとし、自身を国民の声の代弁者と位置付けた。

 

 トランプ大統領は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱など大統領選挙後の達成事項を網羅的に振り返った後、今後の対応事項を列挙した。具体的には、法人税の大幅引き下げや中間層の減税などの税制改革について触れたほか、貿易、移民制度改革、インフラ開発、オバマケアの撤廃および代替制度の導入(Repeal and Replace)の方針説明に時間を割いた。

 

 貿易については、他国が米国からの輸出に対して高い関税や税金を課す一方、米国は輸入に対してはほとんど課税していないと述べた。「私は自由貿易(Free Trade)を強く信奉しているが、同時にそれは公正な貿易(Fair Trade)でなくてはならない」とし、リンカーン大統領の言葉を引用しながら、外国からの輸入品に対して保護主義的な政策を導入する可能性を示唆した。ただし、特定国を強く批判するなどしてきたこれまでの発言と比較すれば控えめな表現にとどまっており、国境調整税に関する言及もなかった。

 

<能力主義に基づいて移民制度を改革>

 移民制度改革については、低技能の労働者ではなく、経済的に自立可能な人材(Support Themselves Financially)を受け入れ対象とする能力主義制度(Merit-based Immigration System)に移行するとした(注)。「ワシントン・ポスト紙」(3月6日)は、米国の移民制度が永住許可者との近親関係を重視する現行制度から、技能や雇用可能性を重視する能力主義に移行すれば、人口動態や長期経済に及ぼす影響は大きいと報じている。

 

 インフラ開発に関しては、民間および公共資金により1兆ドル規模のインフラ投資を創出する法案の承認を議会に求めるとした。また、これらのインフラ投資は「米国製品を買い(Buy American)、米国人を雇用する(Hire American)という2つの原則に基づいて行われる」と述べた。議会専門誌「ザ・ヒル」(2月28日)は、共和党議員がトランプ大統領の発言に賛意を示したことに触れる一方、民間投資家への連邦税控除のみを資金調達の手段として用いることに対しては農村部の共和党議員から不満が出ていること、連邦支出額によっては財政保守派からの反発が想定されること、などを指摘している。

 

 オバマケアについては、「政府が認定した保険への加入を国民に強制することは間違っている」とした上で、「保険料を安くすることが、保険を全ての人が購入できるようにする方法であり、われわれはそれを行う」と述べた。共和党下院議員が3月6日に公表したオバマケア代替法案には、保険の購入義務の撤廃に加え、保険購入に当たっての税額控除が盛り込まれている。

 

<主要メディアやアンケート調査も好意的な評価>

 具体的な政策内容は開示されなかったが、「ワシントン・ポスト」紙や「ニューヨーク・タイムズ」紙などの主要メディアでは、過激な発言が抑制され「大統領らしい演説だった」として演説内容を評価する報道が目立った。

 

 CNNと調査会社ORCが演説後に実施したアンケート調査(2月28日)によると、大統領の演説を「強く支持する(Very Positive)」が57%、「やや支持する(Somewhat Positive)」が21%だった。2009年のオバマ大統領就任時(強く支持する:68%、やや支持する:24%)や、2001年のブッシュ大統領就任時(強く支持する:66%、やや支持する:26%)に比べると評価は下回るが、8割近くの回答者がトランプ大統領の演説を評価した。「トランプ大統領の政策が米国を良い方向に導く」と回答した人も、演説前(2月24~27日)の58%から演説後(2月28日)には69%へ上昇している。

 

(注)現行の移民ビザ制度においても、知的労働者や専門職などを対象とした「雇用に基づく移民ビザ制度」が設けられている。

 

(鈴木敦)

(米国)

ビジネス短信 459fd6254c3ecaf5