乳がん検診や糖尿病予防関連に商機-医療機器展示会「アラブヘルス」にみる中東市場(1)-

(アラブ首長国連邦)

ヘルスケア産業課、ドバイ発

2017年03月02日

 中東最大の医療機器展示会「アラブヘルス(Arab Health)」が1月30日~2月2日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。各国から医療機器メーカーや販売代理店、医療従事者、政府・業界団体の関係者らが一堂に会した。展示会の模様と拡大する中東の医療市場について、2回に分けて報告する。

<過去最多の4,400社・団体が展示>

 42回目を迎えたアラブヘルスの主催者は、インフォルマ・ライフサイエンス・エグジビション。規模は毎年拡大しており、これまで併催していた研究・試験機器展示会「メッドラブ(MEDLAB)」の日程を1週間後にずらして展示面積を拡大したため、出展者数は70ヵ国・地域、4,400社・団体と過去最多となり、来場者数(未発表)も前年の13万人を超えたもようだ。約40の国別パビリオンが設置され、ロシア、ベラルーシ、ラトビアのパビリオンも初めて設けられた。会期中にはドバイ首長や財務相ら要人も駆け付けた。

 

 中核ホールでは、米国のGEヘルスケア、ドイツのシーメンスヘルスケア、オランダのフィリップス、中国のシンセン・ミンドレイ・バイオ・メディカル・エレクトロニクスや韓国のサムスン、日本の東芝メディカルシステムズ、日立、富士フイルムなど、各国の大手医療機器メーカーが大型ブースを構え、各国の代理店や病院関係者などに最新技術や製品、サービスを紹介した。医療機器分野においてはドイツで開催される「メディカ(MEDICA)」が世界最大の展示会だが、アラブヘルスもメディカに見劣りしない規模に成長した(注)。

 

<日本製品PRの場として最適>

 ジェトロが組織したジャパンパビリオンの出展者は、2011年に取り組みを始めて以来最多の20社に上った。中小企業メーカーらは医療現場で診断や治療に用いる幅広い装置、器具、消耗品を展示し、日本製品の高品質と使い勝手の良さを訴えた。特に、血行促進効果のある足の健康サポーター、代謝を改善する温熱治療寝具、床擦れ予防用エアマットレスなど、中東で関心の高まる糖尿病や肥満の予防・治療、リハビリなど向けの製品が来場者の目を引いていた。ある出展者は「糖尿病関連というだけで、大変興味を示してくれた」と話していた。

 

 ジャパンパビリオンを訪れた代理店は、中東諸国のみならずインド、パキスタンなど南アジア、アフリカ、東南アジアなど多岐にわたり、商談の成約見込み額はメディカに並ぶほどだという。

写真 来場者でにぎわうジャパンパビリオン(ジェトロ撮影)

 初めて参加した企業は「会期前は日本から離れている中東市場のイメージを持ちにくかったが、ふたを開けてみると、UAE、サウジアラビア、イラン、クウェート、カタール、ヨルダン、バーレーン、スーダン、レバノン、イラクなどなじみの薄い国の代理店などから声が掛かり、それぞれ多くの需要があることを確認できた」と語っていた。

 

 日本留学の経験がある、ドバイの大手私立病院グループの医師は「日本の製品が良いことは分かっているが、欧米などの製品に比べ知る機会が少ない」と指摘する。世界に拡大する新興市場に日本製品をPRする場として、アラブヘルスは適しているようだ。

 

 またこの医師は、日本企業が中東市場で成功するための要件として、価格競争力が高いことや病院に柔軟な支払い条件を提示できること、補修備品を含めて病院の求めに速やかに対応できることを挙げる。

 

 なお、中東各国に医療機器を販売するためには、欧州の医療機器指令への適合宣言(CEマーキング)が求められるケースが多いことに留意が必要だ。各国の法的要件には含まれていなかったとしても、市場参入前にCEマーキングが完了していることで現地での製品登録手続きがスムーズになることが多いという。

 

<「女性」と「子供」が市場のキーワード>

 中東医療機器市場のキーワードといえば、「女性」と「子供」といえるだろう。アラブヘルスの会場では、周産期や女性の健康に関係する製品を各社が前面に押し出していた。

 

 GEヘルスケアは保育器、胎児の診断に使う超音波装置、マンモグラフィー(乳房X線撮影装置)、マンモグラム(乳房X線写真)を解析するソフトウエアなどを並べていた。GEヘルスケアは、新マンモグラフィーシステム(Senographe Pristina)で一番重視したのは使い勝手だという。同社の調査によると、3人に1人の女性が不便さや痛みを感じることを理由にマンモグラフィー検査を控えている。痛みの理由の1つは、体が撮影台の角張った端に当たることなので、当たっても痛くないように、台の角を丸く削った。これは患者の声に耳を傾け、日本のものづくり企業と共同で実現したという。

 

写真 保育器などを展示するGEヘルスケアのブース(ジェトロ撮影)

 米国の診断機器大手ホロジック(Hologic)は3Dマンモグラフィーを展示し、「従来の2Dのマンモグラフィーよりも、がんを15ヵ月早く発見可能」「放射線量を低減」「診断時間を短縮」とアピールしていた。

 

 なお、会場にはピンクリボン(乳がん検診啓発)運動をサポートするPRも目立った。各国の医療機器メーカーが女性を対象とする市場に注目していることが明白だ。

 

<最新技術に精通した医師育成が急務>

 今回のアラブヘルスのハイライトの1つは、医療従事者に最新の技術を体験してもらう「ハンズオン・トレーニング」ゾーンだった。湾岸地域では、がん治療や心臓手術のような高度医療分野において、最新技術に精通した専門医らが不足しており、患者が国外で治療を受ける医療ツーリズムが進んでいる(「アラブ・ホスピタル・マガジン」誌2017年1・2月号)。展示会では、日米欧の大手企業が資機材提供に協力するかたちで、放射線、心臓手術、神経治療などをテーマに体験学習が行われていた。

 

 3Dプリント技術の展示ゾーンも拡大した。ドバイ保険局(DHA:Dubai Health Authority)のハマッド・アル・カタミ長官によると、3Dプリント技術はドバイが2021年を目標に官民協力で進めている医療従事者育成などの「ヘルスケアシティー戦略」において、技術革新の中核に位置する。例えば、ドバイの医療機関で3Dプリント技術を活用し、手術前のシミュレーション用の3D心臓モデルを用意する、患者の体型に合った義肢を作成する、といったことが計画されている。一部の3Dプリントは2017年末にも医療現場に導入される予定だ。

 

 3Dプリント技術を医療現場で活用することはまだ模索段階にある。しかし、メディカや北米放射線学会(RSNA)など大型医療機器分野の展示会や学会でしきりに議論されている3Dプリント技術の医療への応用は、中東でも注目されている。

 

 次回のアラブヘルスは2018年1月29日~2月1日、同じくドバイで開催の予定だ。

 

(注)メディカの会場は国際館以外が製品分野別に分かれているのに対し、アラブヘルスでは分野別の仕切りがない。製品カテゴリー別、国別で出展者を探すのに、主催者が発行しているショーカタログやアラブヘルス専用アプリが役に立つ。

 

(シッチ・アナスタシア、後藤昌夫)

 

(アラブ首長国連邦)

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