太平洋同盟諸国、アジア太平洋地域との連携に本腰-議長国チリが主導し働き掛け-

(チリ)

米州課、サンティアゴ発

2017年03月28日

 太平洋同盟が他の経済ブロックや国、特にアジア太平洋地域との連携に本腰を入れ始めた。内部の統合作業が順調に進んでいることに加え、台頭する保護主義への懸念から、同盟は結成時の理念に基づき、次のアクションとしてアジア太平洋諸国との経済連携の拡大・深化の作業に入ったとみることもできる。太平洋同盟の現議長国であるチリは、3月に同盟諸国の首脳会議、関係閣僚会議そして、日本を含むアジア太平洋諸国の閣僚らを招いたミーティングを相次いで開催した。

<日中韓などアジア諸国とのハイレベル会合を相次いで開催>

 2012年6月に発足した太平洋同盟(現加盟国:チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー)は、加盟国間の経済統合を進めるとともに、当初から開かれた同盟、特にアジア太平洋地域との関係強化を掲げていた。加盟国間の統合作業については、2015年7月に統合の組織・体制などを定めた枠組み協定の発効、2016年5月には加盟国間の貿易投資の促進・円滑化の取り組みをまとめた追加議定書の発効で一応のめどはついた。トランプ米政権の発足後、環太平洋パートナーシップ(TPP)からの米国の脱退および保護主義の台頭に対し、太平洋同盟としては、自由貿易推進という方針の堅持と同盟の特徴である開放性につき加盟国間であらためて認識を共有する必要が生じた。また、太平洋同盟発足当初から基本方針に盛り込まれていたアジア太平洋地域との関係強化に向けて、本腰を入れなければならない時期に至ったとみることもできる。こうした状況を踏まえ、太平洋同盟の現議長国であるチリは、トランプ政権による米国のTPP離脱宣言後、積極的なイニシアチブで関係各国への働き掛けを始めた。

 

 3月9日に太平洋同盟4ヵ国の首脳によるビデオ会議、10日にはチリの首都サンティアゴで第12回財務相会合が開催された。さらに、3月14~15日にはビーニャ・デル・マル市で、太平洋同盟の経済関係閣僚会議と、日本を含むTPP署名国、中国、韓国の計15ヵ国から外務・貿易担当の大臣、副大臣、次官、駐チリ大使らを招いたハイレベルのミーティングを開催した。これらの会議では、保護主義台頭に伴う不透明感を背景に、太平洋同盟が1つの地域経済統合体として自由貿易促進の方針を重視していることを示すとともに、アジア太平洋諸国に対して1つの統合体として連携強化に能動的に関わることへの決意をアピールする機会となった。

 

<連携のため「準加盟国」カテゴリーを新設>

 3月9日の太平洋同盟諸国の首脳によるビデオ会議には、加盟4ヵ国の首脳が参加した。会談後、自由貿易をベースとした戦略的統合の取り組みにおいて太平洋同盟をラテンアメリカ諸国とアジアをつなぐプラットフォームとして機能させるという方針について合意したとの発表があった。今後、アジア太平洋諸国はじめ関係国・地域とのハイレベル対話を通じて他の経済統合体・国との通商協定拡大・深化を図り、非関税障壁撤廃などによる市場開放を推し進めていくことになる。

 

 この首脳会議を受け、3月14日にビーニャ・デル・マル市で開かれた太平洋同盟諸国の関係閣僚会議では、今後の地域統合や貿易深化の具体的な進め方に関する議論が行われた。会議後にムニョス外相は、アジア太平洋諸国との連携を密にするため、太平洋同盟に「準加盟国」のカテゴリーを新たに創設し、太平洋同盟と早期かつ高水準な協定締結を望む国を、準加盟国と位置付けるという方針を示した。他方で太平洋同盟は、南米南部共同市場(メルコスール)との貿易促進の重要性についてもコメントし、4月にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで閣僚級会議を予定していることを明らかにした。

 

 チリ大学国際関係研究所のフェリッペ・ムニョス教授はジェトロのインタビューに対し、「チリから見た場合、ブラジルとアルゼンチンは重要な貿易相手国だが、現時点で政治経済状況が安定しているとはいえず、そのためプライオリティーとしてはまずは太平洋同盟、そしてアジア太平洋諸国、次いでメルコスールが位置付けられている」とコメントした。また、チリ・カトリカ大学国際研究センター長のホルヘ・サハド氏は「チリにとり、太平洋同盟はそのバーゲニングパワーが魅力だ」とし、統合体としての対外交渉力増強や、自由貿易を重視するとの対外的発言を太平洋同盟として発信できることを政府が重視しているとの認識を示した。また、「TPPと同様に、高いレベルでの統合が進んでいる太平洋同盟をベースに今後の通商協定交渉を展開することも念頭に置いているだろう」と述べた。

 

 なお、3月10日にサンティアゴで開催された第12回太平洋同盟財務相会合では、金融商品の国境を越えた相互の販売が容易となるような仕組みである「ファンド・パスポート」を創設するために、早期に規制調和を進めるとの合意がされた。加盟国間の統合に際し、残された課題であるインフラの整備、金融の統合、サービス貿易の障害となっている金融面でのボトルネック解消が、この財務相会合で集中的に討議された。

 

<TPPの成果を再確認し、5月のAPEC会合で議論へ>

 太平洋同盟閣僚会議の翌15日には、議長国チリの呼び掛けにより「アジア太平洋地域における統合イニシアチブに関するハイレベル対話:課題とチャンス」が開催され、太平洋同盟加盟国、TPP署名国(米国は駐チリ大使が参加)、中国、韓国の計15ヵ国から参加があった。チリ外務省関係筋によると、今回の会合は「インフォーマルに意見を交換するもの」ということで共同宣言などは出されなかった。なお、同日に行われた朝食ミーティングでは、(1)市場開放維持のための協力と保護主義台頭への懸念、(2)TPPの戦略的・経済的意義の再確認、(3)各国におけるTPP関連の国内プロセス、(4)アジア太平洋における経済統合の進め方に関する意見・情報交換が行われ、これについては5月20~21日にベトナムで開催される予定のAPEC貿易担当相会合前に、上級貿易担当者による準備会合が開催されることとなった。上記4点を踏まえて作成されたステートメントには、米国を除く11ヵ国が署名した。また、本会議に併せ、多数の2国間会議が行われ、当該国間の諸課題について意見交換が行われた。

 

(竹下幸治郎、小竹めぐみ)

(チリ)

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