トランプ政権の政策はEUにとって「脅威」-欧州理事会議長がEU首脳への書簡で言明-

(EU、米国)

ブリュッセル発

2017年02月02日

 欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は2月3日にマルタで開催されるEU27ヵ国(英国を除く)の非公式首脳会議を前にEU首脳に書簡を送り、米トランプ政権の政策を中国、ロシア、中東情勢などと並ぶ「脅威」と位置付けた。さらに、米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱などを念頭に、EUとの通商関係を重視するパートナーとの交渉に集中すべきとも述べ、「米国抜き」で世界の通商ルールの形成を進めることも辞さない姿勢を示しつつ、米国の孤立は本意ではないとの考えもにじませている。

<「中国」「ロシア」「中東情勢」と並ぶ脅威に列記>

 トゥスク常任議長はEU首脳に送った書簡の中で、EUを取り巻く情勢を「(3月に60周年を迎える)ローマ条約調印以降で最大の危機」とし、「今日、われわれは『地政学的環境変化に伴う外部からの脅威』『EU懐疑主義やナショナリズム、外国人排斥などを背景とする内部の脅威』『これまでEU統合を推進してきたエリート層(自身)の幻滅、ポピュリズム迎合などの心理的脅威』の3種の脅威に直面している」と指摘した。

 

 この中でトゥスク常任議長は、特にEU域外からの地政学的脅威を危険と見なし、「『海洋進出』の暴走など攻撃的な中国(assertive China)」「ウクライナなどでの強引なロシアの軍事行動」「中東アフリカでの紛争・無政府状態」と並ぶ脅威として「米国新大統領による憂慮すべき政策に伴う不透明な先行き」を列記した。これらはEUの価値観とは相いれず、特に米国での政権交代はEUに困難な状況をもたらしているとして、「これまで70年間続いてきた米国の外交政策を否定しかねない」とトランプ大統領の政策展開を批判した。

 

<「米国抜き」で通商ルール形成を進めることも辞さず>

 他方、書簡の後半でトゥスク議長は「EU統合の重要性」に繰り返し言及。米国、ロシア、中国の超大国に屈しないためにも、EU27ヵ国による統合を維持することが肝心とし、英国のEU離脱(ブレグジット)問題についての危機感もにじませた。

 

 さらに、書簡の末尾では「われわれは米国の通商政策の転換をEUの優位性に活用すべきだ。われわれの利益を守ることにも配慮するが、EUとの利害を重視する貿易パートナーとの通商交渉に集中すべき」との見解を明らかにした。これはトランプ政権によるTPP協定離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉などの政策転換に伴い世界の通商ルール形成が停滞するなら、EU主導でこれまでの通商パートナーとの交渉を優先的に進め、通商ルールを構築しようとの姿勢を示唆したものだ。トゥスク議長は「EUは開かれた『貿易の世界の超大国』としての役割を放棄してはいけない」「法の支配による国際秩序の維持に努める」とも語り、「米国抜き」で世界の通商ルール形成を進めることも辞さない姿勢も示した。

 

 ただし、これまでの欧米関係を放棄し、米国を孤立させようとしているわけではないとも述べ、「団結すれば栄え、分断すれば滅ぶ(United we stand, divided we fall.)」(ケンタッキー州のモットー)という言葉を「米国の友人に思い出してもらいたい」と書簡を結んだ。

 

(前田篤穂)

(EU、米国)

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