保護主義や移民排斥に警戒強まる-トランプ米大統領就任に対する見方-

(フランス、米国)

パリ発

2017年02月07日

 オランド大統領は、米国のトランプ新政権が打ち出した保護主義や移民排斥措置に対し、EU加盟国に結束して強硬姿勢で臨むよう求めた。これまでトランプ大統領の政策運営を見守る姿勢を示してきた産業界も警戒心を強めている。米国の保護主義政策がフランス経済に与える影響は大きくないとの見方がある一方、米国と中国の通商戦争勃発による世界的な景気低迷が懸念されている。

EU加盟国に結束して対抗求めるオランド大統領>

 オランド大統領はトランプ新政権に対し、強硬な姿勢を示す。トランプ氏がドイツ「ビルト」紙と英国「タイムズ」紙(いずれも18日)のインタビューに、英国のEU離脱を「正しい」と発言し、ドイツのメルケル首相の移民政策を「破滅的間違い」と批判したことについて、オランド大統領は19日、「EUは何をすべきか外部からの助言を必要としない」と反論した。

 

 またトランプ氏が大統領就任後、選挙期間中に公約した環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱やメキシコとの国境の壁建設、移民入国規制などの大統領令にサインしたことについて、オランド大統領は128日、「米国大統領がパリ協定の有効性を疑問視するために気候問題に言及するとき、われわれはこれに反論していかなければならない。米国大統領が欧州経済だけでなく世界経済を不安定にする保護主義政策を次々と打ち出していくとき、また彼が移民の受け入れを拒否するとき、欧州は彼に反論していかなければならない」とし、EU加盟国に、結束して米国に対抗していくことを求めた。

 

 フランス国内でトランプ新政権を支持する政党は極右「国民戦線(FN)」だけで、マリーヌ・ルペンFN党首はトランプ氏の政策を「経済愛国主義の良い例だ」と称賛する。ルペン氏は14日、米国自動車メーカーのフォードがメキシコ工場建設の中止を発表したことについて、「トランプ氏は大企業から海外生産移転の撤回を取り付け、米国民の利益のため国内回帰を命ずることができることを示した。政治的な意思力があれば可能なのだ」と発言していた。

 

 ただ、トランプ大統領とフランスの関係は極めて弱いとされる。「ル・パリジャン」紙(117日)によると、トランプ氏はフランスの政治家とのつながりを持たず、米国のオンラインニュースサイト「ブライトバート・ニュース」でFNを支持する意思を表明したスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問もルペン党首と面識はないという。

 

<産業界は慎重姿勢も警戒心強める>

 フランスの主要な企業経営者の中でトランプ氏と面談したのは、今のところ高級ブランドのLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループのベルナール・アルノー会長のみ。トランプ氏と(米国内での)雇用について話し合ったと報道されている。これまでフランスの産業界は、トランプ大統領の政策運営を慎重に見守る姿勢を示してきた。ルノー・日産のカルロス・ゴーン会長は15日、「北米自由貿易協定(NAFTA)の内容が変われば、新しいルールに従うだけだ。同じルールが全員に課されるのであれば、どのような状況にも対応できる」と発言した。一方、フランスの経営者団体であるフランス企業運動(MEDEF)のピエール・ガタズ会長はトランプ氏が大統領選挙(201611月)に勝利した際、「トランプ政権の政策が向かう方向を見極める必要がある。われわれは状況に対応していく」としていたが、111日には「(トランプ氏の)度を過ぎた保護主義は世界にとって極めて危険だ」と述べ、警戒心を強めている。

 

<米中通商戦争の勃発を懸念>

 フランスの貿易に占める米国の比重は、輸出・輸入ともに7%ほどで比較的小さい。米国の保護主義政策がフランス経済に与える影響は大きくないとの見方が強い一方、米国と中国の通商戦争勃発による世界的な景気低迷の影響が懸念されている。「レ・ゼコー」紙(16日)は「米国が国内の産業・雇用を守るため、WTO規定で使用が認められているアンチダンピングやセーフガードを相次ぎ発動してくるだろう。これが保護主義的措置の対象となった相手国による提訴につながるのは避けられない。短期的にはこれが最も起こり得るシナリオだ」と解説した。

 

 トランプ政権の通商政策では、フランス国際経済予測情報研究所(CEPII)のセバスチアン・ジャン通商問題担当ディレクターはトランプ大統領が調印したTPP離脱の大統領令について、「TPPはオバマ政権が中国を軸にアジアの経済地域圏が構築されることを避けるために着手したもの。米国のTPP離脱は米国から中国への『史上最大の贈り物』だ」とし、「今後、中国は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を推し進めることになるだろう」と見通した。また、フランス国際関係戦略研究所(IRIS)のエコノミストは「米国離脱後は参加国のTPPへの関心が薄れ、TPP自体が消滅することも考えられる」との見方を示した。EUが米国オバマ前政権と交渉してきたEUと米国の包括的貿易投資協定(TTIP)についても、「トランプ政権が交渉を続けることはないだろう」とした。

 

 「ラ・トリビューヌ」紙(130日)は「(トランプ大統領の標的となった)中国はドイツおよびEUと(反保護主義の)戦略的提携を探ることになるだろう」と解説。一部の識者からは、EUは「一帯一路」構想でグローバル化する中国と協力することにより、アジアでのプレゼンスを高めるべきだ、との声も出始めている。

 

(山崎あき)

(フランス、米国)

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