トランプ政権に強く反発、懸念表明相次ぐ-EUがマルタで非公式首脳会議-

(EU、マルタ、英国、米国)

ブリュッセル発

2017年02月06日

 EUの非公式首脳会議が2月3日、マルタの首都バレッタで開催された。会議前半は、不法移民対策について協議した。地中海中央部経由の不法移民流入を抑止するため、リビアに対し支援を拡大する方針などを「マルタ宣言」として採択した。ランチタイム・セッションには、EU首脳として初めて米国ドナルド・トランプ大統領との会談を実現した英国のテレーザ・メイ首相も出席し、結果報告が行われた。ただ、トランプ政権の政策に対するEU首脳の反発は強く、「EUの理念が踏みにじられた場合、われわれは黙っていない」などと、米国に対し懸念を表明する発言が相次いだ。

<不法移民の流入抑止へリビア追加支援を決定>

 今回、初めてEU議長国(任期:201716月)を務めるマルタで23日、EUの非公式首脳会議が開かれた。会議前半は移民問題対策について協議し、リビアなどアフリカ北部からマルタ、イタリアなど地中海中央部を経由した不法移民の欧州流入を抑止するため、リビアに対する支援拡大を盛り込んだ「マルタ宣言」を採択した。会議の中で、欧州委員会はまず、リビア政府への2億ユーロの追加支援を決定、リビア経由の不法移民の渡航を水際で食い止め、今後はさまざまな基金を活用し、北アフリカ地域全体の経済開発などに包括的に取り組む方針だ。

 

 地中海中央部ルートから流入する不法移民はEUが認識しているだけで2016年の1年間に18万人を超えており、死亡者・行方不明者も後を絶たない。地中海東部ルートからの流入は、トルコ政府の協力を得て不法移民対策を徹底した結果、減少傾向にあり、EUとしては今後リビアの沿岸警備のほか、リビアに滞留する不法移民の本国送還などを含めて中央部ルート対策に本腰を入れることになる。

 

<トランプ大統領と先行協議した英国に批判的空気>

 ランチタイム・セッションには、トランプ米大統領との会談報告のため英国のメイ首相が出席した。メイ首相は127日、EU加盟国の首脳として初めてトランプ大統領と会見したが、欧州側の主要メディアが同首相を「トランプのメッセンジャー」と報じるなど、苦しい立場だ。こうしたメイ首相について、リトアニアのダリア・グリボウスカイテ大統領は「(メイ首相に米国との橋渡しをしてもらう必要はない。なぜならば)われわれは最近の米国とはもっぱらツイッターでやりとりすることになっている」と皮肉った。このほか、議長国マルタのジョゼフ・ムスカット首相は、英国がEUとの離脱協議〔同時進行の自由貿易協定(FTA)交渉〕と並行して米国とのFTA交渉を進めようとしていることを念頭に、英国はEUと米国のどちらに優先順位を置くか決めなければならない、と苦言を呈している。また、メイ首相はこの機会に、欧州側のNATO軍経費負担増額を求めるトランプ大統領の意向をEU首脳に伝えたとされ、このことがEU側の強い反発を呼んでいる。

 

 このほか、メイ首相は「英国におけるEU市民の権利保障とEUにおける英国市民の権利保障は互恵関係にあるべき」と発言したと報じられており、ハードブレグジットの結果、EUが域内で生活する英国市民の権利保障を一方的に打ち切った場合、報復する姿勢を示したものと思われる。

 

<良き友人である米国に「物申すEU」であるべき>

 ランチタイム・セッションを挟み、午後は「(今後の対米関係などを念頭に)EUの将来」について議論が交わされた。欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は閉会あいさつで、「最近の世界情勢をみると、いかに強力なEUが必要かということを思い知らされた」と述べ、「大西洋の対岸(米国)との協力関係は引き続きわれわれの優先課題」「(欧米関係は)自由主義世界を支える屋台骨だ」と総括した。

 

 マルタのムスカット首相は会議閉会後の記者会見で、「反米主義に傾くつもりはない」と前置きした上で、「米国との関係を維持する必要性に変わりはないが、政治理念に影響が及ぶ場合、それを看過することはできない。EUの理念が踏みにじられた場合、われわれは臆することなく発言するだろう」と述べた。EUを軽視し、英国との関係を優先しているように受け止められる米国のトランプ政権の姿勢に対し牽制姿勢を示唆する発言だ。ルクセンブルクのグザビエ・ベッテル首相も「ここ数日の間に米国で起きていることには感心できない」とコメントしている。

 

 フェデリカ・モゲリーニ副委員長(外務・安全保障政策上級代表)も21日、欧州議会での答弁で、トランプ大統領の大統領令によって導入された特定国籍者に対する米国への渡航制限措置について、「EUとしては同意できない」と明言した。また、同副委員長は現在の米国の状況を「米国の危機(American crisis)」と表現、「欧州は、米国の良き友人だ。双方に基本的価値について見解の相違が生じた場合、米国に敬意を払いつつ、(賛同できないという)意思を伝える義務がある」と述べている。

 

(前田篤穂)

(EU、マルタ、英国、米国)

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