シリア和平プロセスに注目、原油安やドル高を懸念-トランプ新政権誕生の影響-

(湾岸協力会議<GCC>、アラブ首長国連邦、米国)

ドバイ発

2017年02月06日

 トランプ新政権の中東政策の全体像がまだ見えない中、湾岸協力会議(GCC)諸国では、ロシア主導の和平プロセスが進みつつあるシリアにおける「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」への対応に注目が集まる。経済面では、エネルギー政策などの影響による原油価格の下落、さらに雇用拡大政策などによる通貨高などへの影響が懸念されている。

<ロシア主導の和平協議への対応に注目>

 トランプ大統領は就任以降、在イスラエル米国大使館のエルサレムへの移転検討、シリア難民受け入れ停止、イラク、イランなど中東・北アフリカ7ヵ国の国民に対するビザ発行の一時停止などの方針や政策を相次いで出している。一方で、129日にはサウジアラビアのサルマン国王、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のムハンマド皇太子と続けて電話で会談し、両国間の友好関係の強化について協議した、とUAE国営メディアが報じた。

 

 トランプ政権の中東政策やその影響はまだ明確になっていないものの、注目されるのはシリアにおけるISISへの対応だ。就任式当日に発表された外交政策で、ISISをはじめとする過激派イスラム組織の根絶を掲げたが、シリアでは201612月にロシア・イランが支援するアサド政権により首都アレッポが奪還され、政府軍と反体制派勢力(ISISなど過激派は除く)が停戦で合意した。ロシア、トルコ、イランが主導した12324日のシリア和平会議に、米国は駐カザフスタン大使をオブザーバーとして派遣した。国連主導の和平協議は2月に再開の方向で調整されているが、トランプ大統領は128日に、ISIS掃討計画を30日以内に提出するようマティス国防長官に指示しており、ロシア主導の和平の流れにどう対応するか注目される。

 

<投資や観光に響く通貨高>

 トランプ政権が120日に発表した「米国第一主義」とするエネルギー、外交、雇用、国防、治安、通商からなる6つの政策は、GCC諸国の経済にさまざまな方向から逆風を吹かせるとみられている。

 

 まずエネルギー政策では、米国のエネルギー自立の方針が明確にされた。201612月にOPEC非加盟国を含めた日量180万バレル減産の合意後、原油価格は1バレル当たり50ドル台前半で推移している。今のところ政策発表後も油価に大きな変化はないが、米国のエネルギー自立方針だけでなく、保護主義的な通商政策に伴う世界の貿易量減少や経済低迷も油価の下落圧力となる。GCC諸国の中で、現在の50ドル前後の水準でも2017年度に財政黒字を維持できるのはクウェートだけとみられており、今後、油価下落圧力が高まるようであれば、各国は財政改革のスピードを速める必要が出てくるだろう。

 

 また、米国の財政支出の拡大や減税政策への期待などによって米国長期金利が上昇しているが、クウェートを除くGCC諸国の通貨はドルペッグ制を採用しているため、米国に合わせて金利を引き上げざるを得ない。GCC諸国は景気が悪化し、さらには財政改革に伴う政府支出の縮小により民間の資金需要が増しているにもかかわらず、金利を下げることができないという矛盾を抱えている。さらに、対ユーロおよび対アジア通貨に対し高くなることで、欧州やアジア各国からの投資、人の流れの減少も懸念される。米国の雇用拡大政策により、米国企業の対外投資への関心が相対的に低下する可能性も指摘される。

 

 欧米やアジア各地域からの投資や人の流れの減少は、ドバイへの影響が特に懸念される。地域の経済ハブとして物流や観光の機能を強化する戦略を描いているドバイにとって、米国は2015年の海外直接投資流入先の2位で、8400万ドルの直接投資を受け入れている。また、米国からの宿泊来訪者数は602,000人で5位で、西欧諸国からは宿泊来訪者数全体の約21%に当たる298万人が来訪している。ドバイ経済開発局は、2017年の観光セクターの成長率を2.0%と見込んでいるが、通貨高による悪影響が懸念されている。

 

(山本和美)

(湾岸協力会議<GCC>、アラブ首長国連邦、米国)

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