動き始めた労働法改革-中南米の制度改定動向-

(ブラジル)

サンパウロ発

2017年02月28日

 ブラジル進出日系企業が問題と指摘する事項に労働法がある。1943年に定められた労働法は、硬直的で労働者保護の色彩が濃い内容となっている。テーメル政権は労働法を改正し、法制度の近代化を図ろうとしている。

<改正案が下院で審議中>

 労働省は20161222日、現行の統一労働法(194351日付大統領令第5452号、CLT)の近代化を図るための改正案を発表した。下院で67872016号として審議されている改正案はテーメル政権の目玉の1つで、旧態依然とした統一労働法に対し、労働協約の裁量を広げて運用の柔軟化を図り、臨時雇用契約やパートタイム労働についても制限を緩和する内容となっている。改正案のポイントは次のとおり。

 

1)年次有給休暇の権利

 統一労働法では12ヵ月間の勤務に対して、次の12ヵ月の期間内に30日間の休暇取得が定められている。この30日間は原則として一括連続で取得することになっており、ごく一部の例外を除いて分割取得は認められていない。このため、人数の少ない企業では業務に支障が生じるとして、制度の柔軟化が求められていた。改正案では、この休暇取得を、労働協約により3分割まで認め、その場合、1つの期間は連続した2週間とする。

 

2)勤務時間

 現行制度では最大で18時間、週44時間が勤務時間となっており、これを超える時間は超過勤務と見なされ、平日の場合50%の割増賃金を支払う必要がある。改正案はこの1日の勤務時間に関して労働協約による裁量を認めている。ただし条件として、月220時間、112時間の上限や、勤務翌日の勤務時間との間に最低11時間の間隔を取り、1日の勤務時間内に30分以上の休憩を設ける必要があるとしている。つまり、これまで8時間を上回る労働時間は超過勤務と一律に見なされていたが、改正案では1日の勤務時間が12時間まで認められるため、超過勤務時間については労使間の合意に委ねられることになる。

 

3)勤務時間の振替・相殺制度

 労働協約の下で認められている勤務時間の振替・相殺制度について、現行の制度では原則として18時間の勤務時間を対象に別の日に振り替えるものとなっている。改正案ではこれを、超過勤務に相当する勤務時間の振り替えを認め、50%の割り増しを反映、すなわち勤務1時間に対して1.5時間を振替・相殺できる制度とする。

 

4)臨時雇用契約

 現行制度では臨時雇用契約について期間は最長で90日間だが、これを120日間とする。なお、現行制度でも1回に限り契約期間の更新が可能だが、120日間の場合でも同様とする。臨時雇用契約により雇用される労働者も労働手帳への記載が必要で、統一労働法の下での労働者の権利が引き続き保障される。

 

5)パートタイム労働

 現行制度でパートタイムの労働時間と定められている1週間に25時間という上限を30時間に拡大する。また、パートタイム労働は超過勤務を認められていないが、1週間に26時間までの勤務時間とした場合には6時間まで超過勤務を認める。この超過勤務は50%の割増賃金を支払う。

 

 ロナウド・ノゲイラ労働相は216日に行われた下院公聴会で、改正案が労働者の権利を奪うものではなく、労働協約の法的安定性を保証するものだと強調している。またOECDの報告書を引き合いに、OECD諸国では1617%の労働者が臨時雇用契約およびパートタイム労働であるのに対して、ブラジルは6%の水準にとどまっていると指摘し、雇用拡大にも寄与すると述べている。同相は、2017年上半期中の労働法改正を目指す考えを示している。

 

(二宮康史)

(ブラジル)

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