関係正常化の動き、当面は手詰まり状態か-トランプ新政権誕生の影響-

(米国、キューバ)

メキシコ発

2017年01月25日

 トランプ大統領は1月20日の就任後、キューバについて何ら方針を示していない。同氏のキューバに関する発言は、フィデル・カストロ前国家評議会議長が死去した3日後の2016年11月28日が最後で、「キューバが自国民、キューバ系米国人、米国全体にとってより良い取引をするつもりがなければ、私は取引を終わらせる」とツイッターに投稿した。次期国務長官のレックス・ティラーソン氏も、1月11日の上院外交委員会の公聴会で、「キューバの民主化に進展がなければ制裁解除の可能性はない」と述べるなど、両国関係は当面、手詰まり状態が続くのではないかとみられている。

<米国が強硬姿勢になる可能性も>

 ティラーソン氏は1月11日に開かれた上院外交委員会の指名承認公聴会で、「トランプ大統領は就任後、全ての関係機関に対し、オバマ大統領が進めてきた対キューバ制裁緩和措置の内容を精査(レビュー)するよう指示することになる」と述べた。

 

 また、キューバ系米国人のマルコ・ルビオ上院議員から「キューバの民主化に何ら進展がみられない状況で、仮に議会でキューバ制裁解除法案が可決された場合、大統領に拒否権を発動するよう進言するか」と質問され、「もし(民主化に進展がみられない状態が)確認されれば、拒否するよう進言する」とし、「オバマ大統領の政策は、人権問題でキューバ側から何らの譲歩も引き出せていない」と語った。

 

 ティラーソン氏の発言を受け、一部報道では、オバマ前大統領が進めてきたキューバとの融和的な政策が逆戻りする、あるいは強硬になる可能性が指摘されている。

 

 他方、キューバを経済という観点でみると、トランプ大統領がしばしば非難するメキシコのように、米国からキューバに工場が移転されるわけではなく、キューバ製品が米国に輸入されるわけでもなく、キューバは米国にとってまだ参入できていない「新たな市場」以外の何物でもないだろう。

 

 ティラーソン氏は石油大手エクソンモービルの前会長兼最高経営責任者(CEO)で、ロシアとのエネルギービジネスを成功させたことでも有名だ。トランプ大統領と共にビジネスマインドの高い2人がキューバ政策を担うことで、キューバ側の出方や交渉内容次第では経済関係がむしろ進展するとの見方もなくはない。

 

 一方、トランプ新政権にとって、キューバの政策的な優先順位は必ずしも高くない。これまでの発言から、オバマ大統領が進めてきた関係正常化路線を継続する可能性は低いとみられ、何かのきっかけがなければ、両国関係は当面、前進も後退もしない状態が続く可能性があるとみられている。

 

<キューバ側に目立った反応なし>

 キューバ政府は、これまでのトランプ陣営のキューバに関する発言に対して特段の反応を示していない。また、1月20日のトランプ大統領就任に際してもコメントなどは発表していない。

 

 キューバ共産党の機関紙「グランマ」は1月21日付1面で、「デモ隊がトランプ大統領を歓迎」との見出しで、米国内各地で反トランプ・デモが実施されたり、警察とデモ隊が衝突したりした様子を伝えている。さらに国際面では、就任式の模様を伝えるとともに、メディアの数はオバマ大統領就任時の半分だが、式典にかけた経費は歴代最高だとして、「億万長者のセレモニー」などと皮肉っている。

 

(峯村直志)

(米国、キューバ)

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