欧州議会、新議長にタヤーニ元欧州委副委員長を選出-EU3機関のトップ全員が対英強硬派政党の政治家に-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年01月18日

 欧州議会は1月17日、ドイツ政界進出を目指し退任したマルティン・シュルツ議長の後任に、元欧州委員会副委員長のアントニオ・タヤーニ氏を選出した。EU側は、英国のテレーザ・メイ首相が同日、EU単一市場から離脱する方針を鮮明にしたことから、結束を呼び掛けるなど警戒感を強めている。欧州人民党(EPP)所属のタヤーニ氏の議長選出により、欧州委、欧州理事会を含め対英交渉を主導するEU3機関のトップが全て強硬姿勢を崩さないEPP所属の政治家となる。

<決選投票は欧州議会の二大政党間の一騎打ちに>

 欧州議会(定数751)は1月17日、2期5年を務めたシュルツ議長の退任に伴う新議長に、タヤーニ元欧州委副委員長(EPP所属)を選出した。タヤーニ新議長はイタリア・ローマ出身で、シルビオ・ベルルスコーニ元首相が結成した中道右派政党「フォルツァ・イタリア」に加わり、ベルルスコーニ政権の首相報道官を務めた経験もある。

 

 今回の欧州議長を決める選挙では、4回目の決選投票で、同じイタリア出身で、EPPと連立を組んできた中道左派の社会・民主主義進歩連盟(S&D)のジャンニ・ピッテラ代表との一騎打ちとなり、351票を獲得したタヤーニ氏がピッテラ氏(282票)に競り勝った。

 

<欧州人民党の勝利の裏で政界再編の動きも>

 欧州議会の最大会派と第2会派の対決の決着をつけたのは、リベラル派「欧州自由民主同盟(ALDE)」とみられている。ALDE代表のギー・フェルホフスタット議員(ベルギー選出)は、タヤーニ新議長の選出直後に「アントニオ・タヤーニ、マンフレート・ベーバー(EPP代表)の両氏に祝辞を述べたい。今から欧州を前へ進める運動が始まる」とツイートした。

 

 ALDEは、英国のEU離脱(ブレグジット)をはじめ、欧州でのEU懐疑派やポピュリズム政党の台頭に警戒感を強めているものとみられ、欧州議会の最大会派EPPへの接近姿勢を鮮明にしている。今回の議長選挙にはフェルホフスタット代表も立候補予定だったが、EPPとの連携姿勢を打ち出すため選挙直前に出馬を見送り、「タヤーニ氏勝利」を導いたとみられている。フェルホフスタット代表は「ALDEとEPPは欧州を前進させるための『新たな連立(new coalition)』の礎を築いた。この協定は『親欧州の志』を共にする全ての(政治)グループとの連携の道を開いている」と述べ、欧州議会での新たな連立を示唆している。

 

<「ハードブレグジット」選択で強まるEU側の結束>

 またフェルホフスタット代表は、英国のメイ首相が1月17日にEU単一市場から離脱する姿勢を明らかにした演説の直後にも、「英国は『ハードブレグジット』を選択した。メイ首相の明確な姿勢は歓迎するが、同時に英国がいいとこどりをする期間も終わりを告げた」とツイート。EU離脱問題に関して対英強硬姿勢を明示してきたEPPに近い考え方を鮮明にした。

 

 欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長は「欧州議会議長選出おめでとう。一緒により良い欧州の明日を目指そうじゃないか」とイタリア語でツイート、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長も「おめでとう。新議長と連携するのが楽しみだ。結束した強いEUには建設的で効果的な議会が必要だ」とツイッターで発信した。

 

 今回のタヤーニ新欧州議会議長就任で、欧州委(ユンケル委員長)、欧州理事会(トゥスク常任議長)を含むEU機関3トップ全てが、強気の対英交渉を目指すEPP所属の政治家となる。トゥスク常任議長はメイ首相の演説について「悲しい展開、シュールな時代だ。ただ、この声明で少なくともブレグジットの現実(方向性)は定まった。(英国以外の)EU27ヵ国は結束、EU条約第50条発動後の交渉準備はできている」とコメントしている。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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