EU離脱と新たな関係構築、2つの交渉は難題-メディアやシンクタンクが基本方針を分析-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年01月26日

 英国のメイ首相が1月17日、EU離脱交渉に臨む基本方針を明らかにしたことは、交渉の見通しの不確実性を減じるものとして国内各層からおおむね好意的に受け止められているが、逆に多くの難題も突き付けられた。EU離脱と新たな関係構築という2つの交渉の進め方、関税同盟の離脱に伴うWTOとの協議など、英国の交渉には難題が山積している、とメディアやシンクタンクは分析している。

<2年間の交渉期間は短いとの懸念>

 「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版1月18日)などは、EUとの合意形成に必要となる課題を指摘している。

 

 まず、EU離脱交渉と、離脱後の新たな関係構築に関する交渉の進め方についての合意形成だ。メイ首相は、離脱通知から2年間の交渉期間中に、EUとの新たな関係についても合意を得る意欲を示しているという。実現には離脱交渉だけでなく、新たな関係構築の交渉も速やかに開始する必要があるが、EU、ドイツ、フランスなどは離脱交渉が新たな関係の交渉に先立つものと認識しているとされる。一方で、その他のEU加盟国は2つの交渉を並行して進めることに寛容ともいわれ、EU側の交渉スタンスがどうなるのか、英国政府としては注視しなければならない。

 

 そもそも2年間という交渉期間は、新たな関係構築という複雑な交渉をするには短過ぎると懸念される。「フィナンシャル・タイムズ」紙は、この期間内で交渉を終わらせるための方法として交渉の対象範囲を狭めることなどを選択肢として挙げ、無関税貿易維持と関税同盟離脱に向けた移行期間の設定のみに交渉の焦点を当てる可能性があるとしている。

 

<EU側、移行期間認めぬことも>

 メイ首相が言及した移行期間の設定については、英国とEUの法規制のいずれがこの期間に適用されるのかという疑問が残るという。メイ首相は、2020年の総選挙も見据えて、移行期間中はEU加盟国としての義務の適用が除外されるよう主張すると考えられる一方で、EU側は、この期間中も単一市場へのアクセスなどを認めるには、英国が人・モノ・資本・サービスの4つの移動の自由を受け入れることが条件という姿勢を貫くとみられる。他方、ブリュッセルのシンクタンクであるブリューゲルのディレクターは、EU側は基本的に移行期間を認めないのではないかとしている。

 

 このほか、在英EU加盟国の国民やEU加盟国に居住する英国民の地位の保証についても、適用期間や適用対象などでEUと合意を得るのは容易でなく、英国経済の強みでもあるサービス産業を含む自由貿易協定(FTA)をEUと新たに結ぶことも容易ではないとも指摘している。

 

<WTOにおける英国の立ち位置こそ重要>

 メイ首相は、関税同盟から離脱して新たに関税協定を結ぶことなどを模索したいと語ったが、「タイムズ」紙(1月19日)は、これは比較的合理的なものとしている。EUは、トルコ、カナダ、ノルウェー、スイスなどとの間で貿易や関税についての取り扱いを定めている。これが英国との新たな関係のひな型になることはないとしても、英国が求めるオーダーメードの協定にEUが柔軟に対応する可能性が示されているという。

 

 関税同盟からの離脱については、シンクタンクのオープン・ヨーロッパが別の視点から課題を挙げている。関税同盟離脱によりWTOとの間で英国独自の関税率についての協議を行う必要があるため、EUとの新たな貿易関係がWTOルールに頼らざるを得なくなることを懸念するよりも、WTOにおける英国の立ち位置を定めることがEU離脱プロセスでは不可欠だというのだ。そして、WTOとの協議はEUとの交渉と並行して進めなければならず、協議により定められる英国のWTOにおける立ち位置こそが、EUのみならずEU域外諸国との今後の交渉の基礎になると指摘している。

 

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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