休暇など待遇改善に伴い企業負担が増加-広州で女性の労務管理セミナー開催-

(中国)

広州発

2017年01月27日

 ジェトロは2016年12月23日、広東省における女性従業員の休暇制度などに関するセミナーを広州で開催した。2016年1月からの「一人っ子政策」の廃止などに伴い、現在は第2子までの出産が奨励されている。これを受け、女性従業員の休暇制度が改善された一方、企業側の負担は増加している。なお、産前産後期の女性従業員に不利な処遇を企業が一方的にすることは、法律に抵触するため注意が必要だ。

<休暇制度でも子供2人の出産を奨励>

 セミナーでは、広東謝宏法律事務所の謝宏・代表弁護士が以下のように講演した。

 

 中国の60歳以上人口は、2014年末時点で21,200万人だが、2020年には約3,100万人増の24,300万人に達するといわれる。「一人っ子政策」により出生率は、長期間極めて低い水準にあることから、将来的に見込まれる人口の極端な高齢化と急激な人口減少が中国経済の持続的発展に大きな影響を及ぼすと懸念されている。こうした中、20161月に人口・計画出産法(以下、新計画出産法)が施行され、「一人っ子政策」は廃止された。

 

 新計画出産法の施行に合わせ、広東省では、同時期に広東省人口・計画出産条例(以下、広東省条例)を施行した。これまでは、一組の夫婦が出産する子供を1人にとどめるよう、結婚や出産に当たり、「男性25歳以上、女性23歳以上」の夫婦に10日間の晩婚奨励休暇と15日間の高齢出産休暇が与えられていた。しかし、新計画出産法や広東省条例の施行を受け、これらの休暇は廃止され、子供2人の出産が奨励されている。

 

80日に拡大された奨励休暇中の給与は企業が負担>

 20161月の広東省条例の施行後は、出産前後に母親には、通常の出産休暇(98日)に加え、規定に該当する者に対し、同条例に基づき30日の奨励休暇が与えられていた。しかし、同条例はわずか8ヵ月後の20169月に改正され、奨励休暇は少子高齢化対策の一環で80日へと拡大された(表参照)。奨励休暇の日数が30日から80日へ50日増えただけでなく、奨励休暇中の給与は生育保険ではなく企業の負担となるため、企業にとってはコストが大幅に増えたことになる。

表 結婚・出産前後の休暇制度

 広東省では、企業は98日間の法定出産休暇期間中、当該女性従業員に対し、原則休暇前12ヵ月の平均月収(注1)に相当する額の月給をいったん支払い、その後生育保険から企業へ手当が補填(ほてん)される。一方、80日間の奨励休暇期間中では、企業は月額基本給(就業規則によっては一部手当などを含む)を当該従業員へ支払う必要があるが、生育保険からは補填されない。

 

 企業が規定どおり給与を支払わない場合は、労働当局から一定期限内に当該従業員に対し、賃金を支払うよう命じられる。これに従わない場合は、支払うべき金額の50%から2倍の賠償金を当該従業員へ追加支給する義務が生じるため、注意が必要だ。

 

<妊娠・出産・授乳期の労働契約解除は困難>

 企業側は、労働契約法第42条により、3期(妊娠期、出産期、授乳期)にある女性従業員の賃金引き下げや会社都合の配置転換ができないほか、以下の事由があっても労働契約を解除できない。

 

(1)労働契約期間の満了

(2)企業側の経済的事由による人員削減

(3)女性従業員が業務に耐えず、養成・訓練、または職位の調整を経ても、なお業務に耐え得ない場合

(4)企業側の客観的な経済状況に重大な変化が生じたことに起因し、労働契約を履行できない時

 

 一方で、こうした時期でも、次の事由があれば、労働契約の解除は可能だ。

 

a.女性従業員側の意思表示による辞職

b.労使双方の協議による合意

c.女性従業員が企業の就業規則に著しく違反した時

d.女性従業員が職責を著しく果たせず、私利を図り、企業に重大な損害を与えた時

 

 このほか、女性従業員が法により刑事責任を追及された時などには労働契約を解除することは可能、としている。

 

 女性従業員が企業に対し虚偽の家族構成を報告し就職した場合は、c.に該当する可能性がある。しかし、家族構成は日頃の業務の遂行とは無関係、かつ個人のプライバシーに関する情報だ。当該従業員が、解雇を理由に労働仲裁委員会へ申し立てた場合、家族構成の虚偽報告により、手当や休暇など何らかの利益を得ている事実がなければ、労働契約解除の認定をされる可能性は小さい。

 

 逆に、同委員会がこうした労働契約の解除を就業差別、違法解除と裁定すると、企業側に経済補償金(注2)の倍額を賠償金として従業員へ支払う必要が生じるため、注意が必要。

 

(注1)基本給のほか、残業代、賞与に加え社会保険料(企業負担分)を含む。これと生育保険から支払われる手当を比べ、高い方が当該従業員への支給額となる。平均月収が同手当を上回る場合、差額分は企業側の負担となる。なお、上海市では、生育保険が従業員に直接支給される。

(注2)労働契約解除前12ヵ月間の平均月収に勤続年数を掛け合わせた額。月収が勤務地前年度の平均月収の3倍を上回る場合は、同平均月収の3倍を限度額とし、これに勤続年数を掛け合わせる(ただし、最長で12年を超えないこととする)。

 

(粕谷修司、汪涵シ)

(中国)

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