8項目「協力プラン」は産業多様化、都市づくり、極東振興に関心－2016年度ロシア進出日系企業実態調査（2）－

＜安定した政治・社会情勢への評価高まる＞

　ロシアの投資環境面でのメリットを聞いたところ、過去の調査と同様に、「市場規模／成長性」（75.6％）の回答が最も多かった（図1参照）。それに続いたのは「安定した政治・社会情勢」（20.7％）で、前回調査と比べて15.3ポイント増えた。2014年に緊迫化したウクライナ情勢やロシアによるクリミア編入に伴う西側諸国との対立状況に大きな変化がないこと、消費者物価も2016年に入り落ち着いてきたこと、などが要因とみられる。

　逆に、投資環境面でのリスクを聞いたところ、最大のリスクとして前回と同じく「不安定な為替」（76.8％）が挙がったが、その比率は8.0ポイント低下した（図2参照）。ロシア中央銀行によると、2016年1～11月のルーブルの対ドルレート変動率（前年同期比）はマイナス11.0％と、2015年通年（マイナス37.4％）に比べ緩やかになった。また、メリットに関する回答と同様の理由から、「不安定な政治・社会情勢」が減少した（59.8％→51.2％）。

＜通関手続き電子化や時間短縮の取り組みには評価も＞

　経営上の問題点として、貿易制度面の課題を聞いたところ、「通関などの諸手続きが煩雑」（41.5％）、「通関に時間を要する」（24.4％）が過去の調査結果と同様に主な課題とされた（図3参照）。しかし前回調査と比べると、比率はそれぞれ15.0ポイント、15.8ポイント低下しており、課題と考える企業は減っている。

　世界銀行の「ビジネス環境の現状」2017年版（2016年10月発表）によると、ロシアのビジネス環境面の順位は190ヵ国・地域中40位となった（ちなみに日本は34位）。2016年版から11位上昇したが、分野別にみると貿易に関する評価は140位と低く、2016年版の170位からは大きく上昇したものの、ロシア当局もビジネス環境上の主課題として捉えており、改善の取り組みを進めている。

　ロシア当局の改善の取り組みについて聞いたところ、ほとんどの項目において過半数の企業が「変わらない」を選択した。「改善」が比較的多かったのは「通関手続きの電子化」（13.4％）、「通関にかかる時間の短縮」（7.3％）だった（図4参照）。貿易制度面の課題としてこれら2項目の割合が低下した背景には、こうした評価があるようだ。

＜難しい現地調達、日本や中国からが上昇＞

　製造業企業に生産面での問題点を聞いたところ、「原材料・部品の現地調達の難しさ」（38.9％）、「調達コストの上昇」（33.3％）、「品質管理の難しさ」（33.3％）が主なものとして挙がり、前回調査とおおむね変わらなかった（図5参照）。現地調達の難しさを反映してか、部品・原材料の調達先は「日本」が37.5％で最も多く、「現地」は24.8％で、前回調査と比べてそれぞれ14.9ポイント上昇、18.5ポイント低下した。また中国が16.9ポイント増の21.8％と、欧州を抜いて3番目に多い調達先となった。

＜「協力プラン」では6割超の企業が何らかの関心＞

　2016年5月にロシアのソチで開催された日ロ首脳会談で安倍首相が提示した8項目の「協力プラン」について、これに関連した事業に取り組む可能性を聞いたところ、少なくとも1つの項目を選択した企業は6割を超えた（図6参照）。製造業では33.3％の企業が「ロシア産業の多様化促進と生産性向上」に関心を示した。非製造業では、商社、金融、物流関係企業を中心に「極東における産業振興、アジア太平洋地域に向けた輸出基地化」（23.4％）に最も多くの関心が寄せられ、次いで「快適・清潔で、住みやすく、活動しやすい都市づくり」（21.9％）が挙がった。一方、取り組む可能性が「特にない」という回答は全体で37.8％を占めた。

（浅元薫哉）