厳しくなった排出基準に注意が必要-環境法律リスクマネジメントセミナー開催(1)-

(中国)

北京発

2017年01月12日

 ジェトロは2016年12月8日に天津市で天津日本人会と、16日には北京市で中国日本商会と環境法律リスクマネジメントに関するセミナーを共催した。北京金誠同達法律事務所の趙雪巍シニアパートナー中国弁護士が、環境汚染行為に対する取り締まりが強化される中で、企業の法的責任と対応策について解説した。2回に分けて報告する。

<排出基準の変更情報をいち早く収集>

 趙氏の講演内容は以下のとおり。

 

 20151月施行の改正「環境保護法」は、環境影響評価(アセスメント)強化、公益訴訟制度の導入、行政取り締まりの強化、総量規制による統一的な管理、情報公開など新たな条項が導入され、大きな法改正となった。2016年は「改正環境保護法の実施年」ともいわれ、違反行為に対する取り締まりが強化されている。

 

 201619月の取り締まり状況をみると、罰金額は55,397万元(約941,749万円、1元=約17円)に上り、生産制限・停止の処分件数や身柄拘留件数、違法設備の差し押さえ件数はそれぞれ前年同期に比べ31.9%、78.9%、88.6%増加している。

 

 注意が必要なリスクに、排出許可基準が厳しくなったことがある。汚染物質を排出標準を超えて、または重点汚染物質の排出総量規制指標を超えて排出した場合、生産制限・停止や、情状が重大なときは営業停止を命じられることがある(改正環境保護法第60条)。地方政府は自らに課された排出基準を達成するため、企業の排出基準を厳しくし、基準を満たしていない企業を処罰する事例が発生している。こうした基準変更の通知が十分周知されていないこともあり、排出許可対象の物質を排出する企業は、排出基準の変更情報をいち早く収集することが求められる。

 

<大きな変更にはアセスメントのやり直しが必要>

 環境影響評価(アセスメント)報告書を提出せず、または環境影響評価の認可を受けずに無断で建設を着工した場合は、建設停止、罰金、原状回復を命じられることがある(改正環境保護法第61条)。また、建設プロジェクトの性質・規模・場所・生産技術に大きな変更が生じた場合、建設委託者は新たに環境影響評価報告書を提出しなければならない(環境影響評価法第162425条)。

 

 環境影響評価の審査・認可を受けて自動車部品を生産していたA社は、企業買収による事業再編でインクカートリッジを生産することになったが、工場の環境影響評価を新たに行わなかったことから、環境保護局から生産停止と罰金12万元を科された。A社は処分に納得せず、最高裁まで争ったが敗訴し、悪質な事例として公表されている。

 

 工場建設時に環境影響評価報告書を提出しても、その後、重大な変更と見なされる設備の入れ替えや生産規模の拡大があれば、環境影響評価のやり直しが必要となる。それにもかかわらず放置した場合、処罰の対象となるリスクがある。上海市では2,000社を対象に、環境影響評価報告書が適正か調査が行われている。自社の環境影響評価報告書が当局の要求に合っているか、見直しておくとよい。

 

<違反行為の疑いがあれば早急に原因究明>

 B社は、就業規則違反で退職した元従業員から地元の環境保護局に、「無断で設置したバイパスから黒い廃液を排出している」と、排出の動画とともに通報された。地元の環境保護局は現場監査の結果、a.廃水処理施設の配管設置場所を勝手に変更してはならない、b.指定期限内に改善し、無断設置したバイパスを取り外すなど廃水施設を改修し、環境影響評価の要求に適合した廃水処理をする、との改善意見をB社に通知するとともに、罰金4万元と責任者の拘留を検討中、と口頭で連絡した。

 

 B社が内部調査したところ、バイパスは設備の故障時に設置した一時的なもので廃液排出を目的としたものではないこと、外部の環境評価機関に調査してもらったところ汚染物を排出しておらず、通報者が提供した証拠は偽造の可能性が高いことが分かった。B社は無断でバイパスを設置したのは法律違反であることを認め、直ちに改修するとした一方、バイパス設置は廃液排出を目的としたものではなかったことと、第三者の環境評価機関の調査結果を環境保護局に説明した。その結果、汚染物質を排出していないことが確認でき、違反行為に対し積極的な対応を示したことから処罰されずに済んだ。

 

 違法行為の疑いが生じたら早急に原因を究明し、適切な是正措置を講じ、地元政府と積極的に意思疎通した上で、関連の調査に協力することが重要だ。

 

(日向裕弥)

(中国)

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