2017年の一般最低賃金を9.6%引き上げ

(メキシコ)

メキシコ発

2016年12月13日

 政府、労働組合、経済界の代表により構成される国家最低賃金委員会(CONASAMI)は12月1日、一般最低賃金を2017年1月1日から前年比9.6%引き上げ日給80.04ペソ(約448円、1ペソ=約5.6円)とすると発表した。今回の改定は、通常の最低賃金改定に考慮されるインフレに加えて、最低賃金労働者の購買力回復を狙ったベースアップが上積みされており、インフレ率に連動してきたこれまでの改定率を大きく上回った。

<ベースアップ分は購買力回復が目的>

 最低賃金には特定の職種を対象としない「一般」と特定の職種を対象とする「職種別」の2種類があり、CONASAMI121日、そのうち201711日発効の一般最低賃金を前年比9.6%引き上げ日給80.04ペソとすると発表した。

 

 一般最低賃金のこれまでの改定状況は表のとおりだ。経済環境により国土を3つの地域に分けて最低賃金が定められていたが、20121126日付官報公示のCONASAMIの決議により、B地域がA地域に統合され、C地域をB地域の扱いとして2地域となった。その後、2015930日付官報公示の決議で2地域を1本化した。

表 一般最低賃金(日給)の推移

 今回の改定は、201611日発効の最低賃金73.04ペソに4ペソ分のベースアップを行って77.04ペソとし、これにインフレ考慮分3.9%をかけて80.04ペソとした。通常、最低賃金はインフレのみを考慮して改定されるが、CONASAMIは4ペソ分のベースアップについて、一般最低賃金で働く労働者の購買力回復を目的としており、これは財やサービスの価格に波及すべきではなく、同様に賃金交渉や経済活動の給与がこれに縛られるべきではない、との見解を示している。賃金交渉は、CONASAMIによる最低賃金改定率をベースに行われることが多いが、今回のCONASAMIの見解は、最低賃金での労働を余儀なくされる者を除いて、賃金交渉はあくまでインフレを反映した3.9%引き上げ部分をベースに行われるべき、と解釈できる。

 

9.6%をたたき台に賃金交渉の見方も>

 労働法第90条は最低賃金を「一家の長が日常の必要性を満たし、子女の義務的教育を与えるのに十分であるべきもの」と定義している(憲法123条にも同様の記載)。この理想と現実には差があるため、実際に一般企業が支払う最低賃金は法定最低賃金の23倍程度が相場とみられる。

 

 これまで最低賃金は、各種罰金や制裁金などの単位としても使用されてきた。このため、CONASAMIは最低賃金の改定において、純粋に家計を営む上での最低の賃金という本来の趣旨に加えて、罰金・制裁金の支払い単価の上昇も考慮しなければならなかった。その結果、最低賃金改定率は毎年、ほぼインフレ率に連動するかたちで落ち着いてきた。しかし、2016127日付官報で公布された改正憲法第123AVI.1段落は、「最低賃金は指標、単位、ベース、測定ないしは参照用の目的に用いることはできない」と規定した。これにより、最低賃金改定率を必ずしもインフレ率に連動させないと考えられるようになり、今回の改定における購買力回復目的の部分(4ペソ)はあくまで最低賃金労働者を対象にしたとCONASAMIはしているが、賃金交渉の現場でそのとおりに進むのか、むしろ9.6%をたたき台として交渉が進められるではないか、との見方もある。

 

(中島伸浩)

(メキシコ)

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