「戦略的パートナー」へ両国の経済連携強化に期待-ブエノスアイレスで「日本・アルゼンチン経済フォーラム」開催-

(アルゼンチン、日本)

サンパウロ発

2016年12月20日

 ジェトロは11月21日、安倍晋三首相のアルゼンチン訪問に合わせ、ブエノスアイレスでアルゼンチンの投資輸出促進庁、外務省とともに「日本・アルゼンチン経済フォーラム」を開催した(亜日経済合同委員会、在亜日本商工会議所が後援)。アルゼンチン政府や企業関係者、アルゼンチンやブラジル進出日系企業ら総勢480人余りが参加した。

<安倍首相は「新たな幕開け」とあいさつ>

 ジェトロの石毛博行理事長は主催者を代表してあいさつし、201512月のマウリシオ・マクリ政権誕生後、日系企業のアルゼンチンに対する関心が高まる中、ガブリエラ・ミケティ副大統領ら要人を迎えてフォーラムを開催できる意義を語った。さらに、空席となっていたジェトロ・ブエノスアイレス事務所への駐在員の再派遣を発表し、「今回のフォーラムが日亜両国の新たな関係構築のきっかになることを祈念する」と述べた。

 

 安倍首相は来賓あいさつで、2016年を「日本とアルゼンチンの2国間関係の新たな幕開けの年」とし、マクリ政権が進める自由開放的な経済政策を評価した。現職の首相として57年ぶりとなるアルゼンチン公式訪問は「新たな段階に入った2国間関係を象徴するもの」だとして、両国の関係を「戦略的なパートナー」と表明した。アルゼンチンは食料や鉱物・エネルギー資源に恵まれ、日本からはインフラを含む幅広い分野での投資が見込まれる。安倍首相は「アルゼンチンにおける雇用の拡大や新たなビジネスチャンスの創出につながることを確信している」と述べた。

 

 アルゼンチン側からはミケティ副大統領が来賓あいさつをし、マクリ政権下のアルゼンチンは透明性が高く変化の過程にある国だ、とアピールした。日系企業も含めた外資を取り込むためのビジネス環境整備の取り組みや、アルゼンチン企業の国際競争力強化の重要性に触れ、今後、両国にとって「ウィンウィン」の関係を築くための努力を惜しまない、と述べた。

 

<日系3社がアルゼンチン企業と覚書を交換>

 来賓あいさつの後、日本・アルゼンチン間のビジネスに関する3件の覚書(MOU)の交換式が行われた。丸紅と鉄道インフラ管理公社(ADIFSE)はブエノスアイレス首都圏における自動列車停止装置(ATS)についての覚書、三井物産と穀物大手ビセンティンは油糧種子・飼料穀物のアルゼンチンからの輸出についての覚書、三菱商事とソクマアメリカーナはアルゼンチンにおける幅広いビジネス協力機会の開拓に向けた覚書をそれぞれ交換した。

 

<両国の政府・企業関係者らが3セッションで講演>

 続いて、「社会インフラ整備への貢献」と題したセッションでは、マリア・マヌエラ・ロペス・メネンデス運輸副大臣が、2016年から2019年にかけて公共交通インフラ整備に総額3322,500万ドルの投資を検討している。道路に125億ドル、鉄道には2035年までに150億ドル、港に42,500万ドル、バスに33,500万ドル、都市内鉄道には2023年までに1411,500万ドルの投資計画があることを明らかにした。また、2015年に丸紅とともにアルゼンチン国鉄との間で、主要近郊路線のロカ線の新車両に搭載するATSシステムの契約を行った日本信号や、アルゼンチンでの地上波デジタル放送の送信機器シェア1位のNECが、それぞれアルゼンチンにおける取り組みを紹介した。

 

 「産業基盤発展への貢献」のセッションでは、ミゲル・ブラウン工業生産副大臣が、南米南部共同市場(メルコスール)諸国とEUとの貿易協定締結に向けた話し合いが進んでおり、日本、メキシコ、コロンビアなどともさらなる貿易拡大を進めたい、と述べた。また、ブラジルでビジネスを行っている三井物産や味の素が、アルゼンチンにおいても引き続きビジネスを強化することを表明した。計測・制御機器メーカーで蒸気や排熱回収などのコンサルティングも行うTLVは、ラテンアメリカを含む世界160ヵ所以上の工場で二酸化炭素(CO2)排出削減に成功した事例を発表した。アルゼンチン穀物大手クレスッドは生産性の高い農地開発を行うビジネスモデルを紹介した。

 

 「ニューフロンティア開拓への貢献」のセッションでは、リカルド・ネグリ農産業副大臣が、マクリ政権下で小麦や大豆など穀物類の輸出税の撤廃や軽減が行われたことを説明し、2020年には6億人分の食料供給、2030年には日本を含むアジア諸国への重要な食料供給国の1つになることを目指す、と明らかにした。三菱商事は、アルゼンチン企業との協力で投資機会を狙うと述べた。アルゼンチン国内でコンピュータ断層撮影(CT)装置で約40%、超音波診断装置で約30%のシェアを持つ東芝メディカルシステムズも引き続き積極的なビジネスを行うと表明した。古河電気工業はアルゼンチンにおける光ケーブルのシェア1位で、リオデジャネイロにおけるスマートシティーの設立と同社の取り組みを紹介。かんきつ類の輸出量が南米最大規模であるアルゼンチンのサンミゲルは、北米と季節が逆であるがゆえのメリットを生かしたビジネス戦略を明らかにした。

 

 フォーラムの閉会あいさつを行った投資輸出促進庁のフアン・プロカチーニ総裁は、ジェトロとアルゼンチン外務省の協力に謝意を表すとともに、ジェトロの駐在員再派遣に期待を示した。また、安倍首相の訪問は「特に政治、経済、貿易・投資、科学技術などの面で2国間関係を強化するもの」だと述べた上で、インフラ、エネルギー、農業、工業、サービスなどさまざまな分野での日系企業のさらなる投資を呼び掛け、政府における窓口となって投資手続きを支援する、と強調した。

 

 マクリ政権下で積極的な規制緩和を行ってきたアルゼンチンは、国家統計センサス局(INDEC)によると、2016年の実質GDP成長率はマイナス1.5%と見込まれているが、2017年は経済の回復、特に投資の増加が見込まれることなどから、3.5%のプラス成長が予想されるとしている。

 

(辻本希世)

(アルゼンチン、日本)

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